第15話【シルトの消息】


 眠りの中でカモメの鳴き声と人が行き交う音を聞いていた。

 まだ寝ていたいと抵抗していたけど、少しずつ意識がはっきりしてくる。


 目を開けると、まだ薄暗い部屋の壁が見えた。


「そういえば港の朝は早いんだったな」


 あくびをしながらバルコニーに出ると、夜明け前にも関わらず、街灯の下で動き回る船乗りと船荷を運ぶ冒険者達の姿があった。


 昨日ギルドで聞きかじった話では、ここの鉄級冒険者は割の良い荷運びの仕事でかせいで装備をととのえ、タリム川河口付近か、その上流の湿原で魔獣を狩って位階を上げるそうだ。

 ただし、荷運びの仕事の割が良いため、魔獣と戦うのをやめ、けんかに明け暮れる者も一定数いるらしい。

 治安が悪いので気をつけろと受付嬢から教えられた。


   ――◆◇◆――


 ギルドに到着すると、予想通り、もう仕事を終えて戻ってくる冒険者がちらほらいる。

 やはり荷運びの仕事をする冒険者の方が多数なんだろう。

 今も一人、一仕事終えたらしい冒険者が受付に向かっている。


 達成証明を渡す時に、透明な凝血石も一緒に渡している。

 専門の業者が回収しているらしいけど、どういう仕組みなんだろう。


「荷運びの仕事がしたいなら、早朝のまだ暗いうちに来ないとダメですよぉ」


 依頼票を張りに来た受付嬢に白いブロック状の血殻を見せる。


「そうみたいですね。でも今日はこれを拾う仕事を受けに来たんですよ」


「ああ、そっちですか! それならいくらでも受けて下さい。何日たっても終わらないんですよ」


 機嫌よくカウンターに戻っていく垂れ耳のウサギ獣人の後について行き、受注手続きをする。


「ところでこのブロックってなんですか? 普通に触ってますけど、毒とかないんですか?」


「何かは知りませんが、今まで冒険者の皆さんが体調不良になったとかはないみたいですよぉ。拾ったものはギルドの搬入口にもっていってくださいねぇ」


 やっぱりゴミ扱いか。

 ギルド職員もこれが元は空になった凝血石だという事は知らないんだな。

 回収業者は凝血石をブロックに加工して、船便でどこかに運んでいた。

 航海の途中で荷が海におちて海岸に打ち寄せられた。

 今わかるのはこれくらいか。


 そんなことを考えているうちに、リオンが待つ砂浜に着いた。


「お待たせ。じゃあ行こうか」


 港近くの砂浜のブロックはすでに拾われていて、同業者はけっこう遠くにいた。

 リオンにごみ袋を渡しながらさっきギルドで確認したことを話す。


「ふぅん。それならギルド以外で回収しているものなのかな?」


「そうか。例えば凝血石をブロックにしてから専用の魔道具のエネルギー源にしていた、とかありえるかもしれない」


 当然だけど、凝血石はブラディア以外で使われる割合が圧倒的に多い。

 個人が魔法用に使う以外にも、水道など公共インフラに大規模に使われている。


 ブロックが落ちている場所に着くと、10人くらいの冒険者がバラバラに作業をしていた。


「あれ? お前ザートか?」


「ああ、チャド……だったっけ? ひさしぶり」


 フードをかぶっていた男が声をかけてきたのでみると、ブートキャンプで一緒に講習を受けたやつだった。


 僕とチャドは作業は続けながらお互いの近況を伝え合った。

 チャドは女の子と二人でパーティを組んでいるらしい。

 ふだんは湿原の方で討伐をやっているけど、今日はその子の体調がちょっと悪いからブロック拾いの仕事をしているという。

 そのショートカットの女の子はここより陸の方でリオンと一緒に作業をしていた。


「ひまだからって酒を飲める身分でもないしな……って、お前はなんだか羽振りよさそうだな」


チャドが僕の格好をみて言った。


「ちょっと鉱山の方で一山当てたからな。装備に優先的に金を回した。命あってのなんとやら、だ」


 羽振りがいいのは外見だけだ。という事にしておく。

 冒険者証は、まあ訊かれればこたえればいいか。

 グランドル古城の件はおおやけにできることじゃない。

 いらない嫉妬を買わないためにも多少の嘘は許されるだろう。


「一山か、いいなぁ。こっちではシルトが調子よく位階を上げていたけど、なんかトラブルにあったっぽいからな。まあ訳ありな奴だろうとは思っていたけど」


 シルトについて意外な所から情報が入ってきた。トラブル? 






   ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただいている方、新しく目を通して下さっている方、ありがとうございます。


昔の情報ですが、港湾労働者は重労働で金遣いが荒いということで、港=ガラが悪い、というイメージになったとか。

○○の取引場所だから、じゃなかったんですね。




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