第25話 ティランジア十騎士団への演説(前)
『竜に育てられた』
シリウス・ノヴァですべき事を終えた僕らはジョアン叔父とフリージアさんにシリウス・ノヴァの防衛を任せ、シャスカを連れてボリジオのマコラでオクティアに向かっている。
旅路で繰り返し頭に浮かんでくるのはバシルの言った言葉だ。
オルミナさんは竜に育てられた。
ビーコとは一緒に育った間柄だそうだ。確かにそれなら捕まえ、飼い慣らした経験はないだろう。
「団長、もうすぐオクティアに着きます。オルミナが里に来た経緯は本当にお伝えしなくてよろしいのですか?」
日差しの弱まった夕刻の空を飛ぶ中考えにふけっていると、、ボリジオがこちらに振りかえって確認してきた。
「ああ、理屈でいうならボリジオに先に聞いてからオルミナさんに伝える方が綺麗に話は進むかもしれない。でも僕らはオルミナさんの口から直接話を聞きたいんだ」
後ろでクローリスとリュオネも頷いている。
理由があるのだから秘密を知る事にためらいは無い。でも、だからこそ本人に尋ねるのが誠意だと思う。
「筋を通すというのであれば何も言うことはありません。吉報をお待ちしています」
いつも通りの安定感で話を終えると、ボリジオはマコラの首筋を叩いた。
この件は少し保留にする。イルヤ神と戦う事は話しても、イルヤ神と竜の関係は、しかるべきタイミングでオルミナさんに話すまでは一部の人だけに伝えておこう。
マコラが傾いたせいで地上が見える。遠くにはオクティアと建設がほぼ終わっている拠点が見えた。
「お、おおー、良いではないか! コリー、また腕をあげたのう!」
シャスカは目の前に建つ真新しい神殿を前にしてご満悦だ。
オクティアから少し離れた場所に作られた要塞都市はコリーの手で九割方できあがっていた。
「だろ? 本当はすぐにでも見てまわって欲しいけど、客がもう神殿にそろっているからな。さっさと仕事を終わらせてきてくれ」
コリーが神殿に親指を向ける。
あの中には十の都市国家の首長、つまりカイサルがティランジアに残した十の騎士団の末裔がいる。
先触れのカレンさんに頼んで連れてきてもらったのだ。
「シャスカ、首長達に演説する段取りは覚えているか?」
「うむ、問題ない。この晴れ舞台の主役、立派に勤め上げてみせるぞ!」
シャスカの虹色の瞳は夕闇の中でも輝いていて、ライ山で復活してから初めて神として人前に立つことに興奮しているのがわかる。
リュオネとクローリスも問題ないみたいだ。
それじゃあ行くか。
神殿の象徴である初代アルバ神の姿をかたどった祭壇を前にして中央にシャスカ、左に僕、右にリュオネが立つ。
クローリスとスズさんはいざという時のために左端に立っている。
そして僕らの目の前にはオクティアのヴァロフ首長を筆頭に十人の都市国家の首長とその護衛が床に膝をついていた。
「モニア、ディア、トリア、ティトリア、ペンティア、エクシア、ヘプティア、オクティア、ノーニア、デシア。古から続く港を守ってきた騎士の長達、皆そろいましたか」
「はい、使いの方のお言葉を聞き、アルバの騎士が末裔、皆急ぎ支度しはせ参じました」
僕の言葉にヴァロフ首長が答え、深く腰を折り頭を下げる。身につけているのは青いマント。アルバ神カイサルの記憶で見た騎士の正装だ。
「それでは僕、アルバ神が第二使徒、ヘルザート・ガンナー・シルバーウルフが皆に伝えます。ここにおわす方こそ、皆が待ち望んでいたアルバ神です」
「シャスカ=アルバじゃ。ながらく待たせた。我はこのティランジアに戻ってきたぞ!」
一歩前に出たシャスカが、マントと同じ色の服をひらめかせ、自信に満ちた笑顔で首長らを見渡す。
けれど、首長らの反応は微妙だ。
「瞳は虹色のようですが……」
「アルバ神様は男神という言い伝えではなかったか?」
「てっきりヘルザート様が神なのかと……」
首長らは顔を見合わせざわめいている。
「のうザートよ。こやつ等不敬ゆえ追放の刑に処してしまえぬかのう」
「駄目に決まっているだろう。いいから段取り通りやるぞ」
ため息をつきながらこうなった時のためのプランを実行する。
気が進まないけどクローリスの話ではほぼ確実に信用するらしいからな。
「なるほど、お主らの言うことももっともじゃ。されど控えよ。ウジャトの騎士の末裔であるならば、この紋に覚えがあろう」
シャスカの言葉にあわせて右手の前に法陣を浮かべる。
「この法陣が目に入らぬか!」
シャスカ、ノリノリだな。
顔は見えないけど、かなり得意げなドヤ顔をしているだろう事は声でわかる。
首長らが互いにマントの留め金や裏地を確認している。
「た、確かにその法陣はウジャトの聖紋。されど……」
首長らはいまいち納得がいかない顔をしている。
うん、そうだよね。僕やコリーがイルヤの神器を使えるように、神器は使徒だけが使えるという訳じゃ無い。
勝手に使徒を名乗る事だってできる。
クローリスの方を睨むとおかしいですね、と言わんばかりに首を傾げている。異世界の常識を信じた僕がバカだったよ。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます。
インスパイア元は某有名時代劇です。
クローリスはおじいちゃん子だったのでこの番組が好きでした。
本作に少しでも興味をもっていただけましたら、ぜひフォローして、物語をお楽しみ下さい!
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