第46話【アルドヴィンの奸計】
「おー、シンプルだけど金かかってんな」
「やっぱり第三十字街を重要拠点化するって噂は本当だったのかしら−」
アルマンとペトラさん達が雑談しながら会議室に入ってくる。
ここは第三十字街のドーム中央にある、十字街中央塔内にある冒険者ギルドのフロア、その会議室だ。
直前にせまった、魔人ジョンと対決し異界門封印の鍵を手に入れる『回生作戦』の事前打ち合わせを行うために参加者が集められている。
出席者は戦闘するメンバーとして僕とリュオネとコトガネ様とシルト。
バックアップメンバーとして【カンナビス】と【ネフラ】の面々。
輸送担当として竜使いのオルミナさん、バシル、ボリジオ、カレンさん。
バックアップメンバーの指揮官兼狙撃手としてクローリス。
そしてシリウスに残る幹部であるスズさんだ。
さらに依頼主である王国側としてリザ行政官とギルベルト中尉が出席している。
打ち合わせの進行は三クラン合同なのでギルベルトさんにお願いした。
「これより、明日開始する『回生作戦』のブリーフィングを行う。進行は依頼人代理の任を受けた私、王国軍所属のギルベルト=ルッテが行う。参加者は前回の異界門調査参加車以外に、【白狼の聖域】の竜騎兵隊とクローリス技術部部長が入るため、先に紹介しておく」
スズさんの紹介にあわせて竜騎兵隊とクローリスが頭を下げる。
彼らが着席した所でギルベルトさんがこちらにうなずいた。
「ブリーフィング開始前に少し時間をください。当作戦のため、情報収集を担当した我々【白狼の聖域】の団員が殉職しました。彼が送ってきた情報が無ければ本作戦は始まる前から失敗していたかもしれなかった。どうか黙祷をもって彼の死後の安寧を祈ってください」
カンナビスとネフラには初耳の内容なので、彼らは目をみはったけれど、僕が半眼で黙祷するとそれに合わせて祈りを捧げた。
「では、ブリーフィングを再開する。我々が依頼した『異界門封印の鍵』は【白狼の聖域】の団長がもつ法具の中にある。だが、それを取り出すにはライ山の異界門で魔人ジョンの魂を吸収し、魔人を復活させ無ければならない。これを実行し『封印の鍵』を手に入れるのが作戦の目標だ」
だが、と一つため息をついてギルベルトさんが息をすった。
「先ほど話に上がった殉職した団員がもたらした情報により、作戦実行日を可能な限り早めるべきという事がわかった。皆に急遽召集をかけたのはそれが理由だ」
第八が情報をもたらしてからまだ十日とたっていない。
事態はそれだけ急を要しているのだ。
「こっちはまだ受け取った装備の慣らしが終わっちゃいねぇ。早めるべきっていうのはどういう訳だ?」
頬杖をついて若干機嫌が悪そうなアルマンにギルベルトさんが答える。
「情報によれば、アルドヴィンはバーゼル帝国側からライ山火口に精鋭を派遣し調査させていた。その結果、異界門の封印にほころびがある事を確認している。そして彼ら封印する手段はもっていなくても、ほころびのある封印を破る方法は持っているようだ」
バーゼル帝国とアルドヴィンは不可侵協定を結んでいる事はアルマン達は知らなかったためか、あ然としている。
「帝国がアルドヴィンに味方しているのかよ……」
「封印を破る方法って、まさか」
ペトラさんの杖を持つ手が白くなっていきカタカタとふるえる。
「アルドヴィンは封印を破る手段を用意している。大がかりな設備なのか、船を使って運んでいるらしい」
破砕音とともに、真新しいテーブルがアルマンの拳で打ち抜かれた。
「異界門の封印を破るなんて、やつら正気か⁉ 異界門事変でどれだけの異界の化け物が出てきたと思ってんだ‼」
異界門事変を経験しているアルマンだからこそ、怒りもひときわ激しいのだろう。
同じく経験者のペトラさんとオルミナさんも机の一点を険しい表情で見つめている。
「情報に寄れば——」
途中まで言いかけ、ギルベルトさんがうなずくのを見て僕は立ち上がり言葉をついだ。
「前回の異界門事変の後、壊滅状態となったウジャト教団からバルド教とアルドヴィン王国は封印の鍵が入ったこの法具を奪おうとしたらしいです」
そういってテーブルの上に盾剣を静かにおいた。
「結局、彼らはウジャト教団に逃げ切られましたが、鍵の奪還を諦めてはいなかったんです」
なにしろ、それまでウジャト教団につけていた首輪が外れてしまったのだ。異界門の封鎖を自分達だけが行える奇跡としてきたバルド教としては諦められるものではないはずだ。
「どこまでが彼らのシナリオかはわかりませんが、ブラディアが独立宣言をしたことを受け、アルドヴィン王国は帝国と不可侵条約を結びました。それにより帝国側から調査を行うことができたようです」
「彼らの目的は、封印の鍵を持ったウジャト教団のあぶり出しです。異界門が開けばとじるためにウジャト教団がやってくるだろうと踏んだようです。そして、たとえ来るのがが遅くなったとしても……」
「ブラディアを魔獣で潰せるってわけか、人でなしが」
「でもバルド教は封印の鍵をウジャト教団が持っていない事を考えなかったのかしら? 封印できなかったらアルドヴィンだってあぶないのに」
アルマンが怒りのこもったうめき声をあげる一方、ペトラさんが顎に指を当てつぶやく。
ペトラさんの疑問はもっともで、バルド教の大胆な行動の根拠について、いくらクラン内で考えても答えが出なかった。
新しい封印の方法を見つけた可能性もあるけど、それなら旧い封印の鍵にこだわる必要はないはずだ。
「今の段階ではなんとも言えません。ただ、彼らが近いうちに封印を解こうとしている以上、僕たちは作戦遂行を急がなければならないんです」
ギルベルトさんに再び進行してもらうようにうなずいて席についた。
作戦を急ぐ、当面やるべき事は決まっている。
アルドヴィンとバルド教は、異界門にきたウジャト教団が封印をするのと同時に異界門封印の鍵を奪おうとするのは間違いないけど、それだけではない気がする。
不可解な点が多い彼らの行動理由がつかめない気持ち悪さを感じたまま、ブリーフィングを進めていった。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回説明回です。
外交と安全保障と宗教と……
いろいろまざって混乱してしまうかもしれませんが、とにかくバルド教が異界門を開こうとしているので急ごうという話です。
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