第28話【沈没船探索 (1)】


 沈没船の処理から戻った僕らはギルドに完了の報告をした。

 タイラントオルカがいた件も一応報告したけど、ギルドが出来る事は船への警告くらいしかない。

 海棲魔獣はこちらから出向いて討伐できるものではないからだ。

 被害者も僕以外出ていないし、これについては一旦忘れよう。


 小さな岩を踏み、大きな岩を登り、プラントハンターの三人はグランベイの丘陵地帯から少し外れた、南岬の延長にある崖の下の谷をすすんでいる。

 この辺りの岩崖に囲まれた地形は隠れるにはもってこいで、今年の冬あたりまで冒険者くずれの盗賊がねぐらにしていたらしい。

 けれど彼らがすでに討伐されているので、利用する人はだれもいない。


「この辺でいいんじゃないかな?」


 リオンが周囲を見回し、人が隠れる場所がない事を確認していった。

 横幅十五ジィ、縦幅五十ジィといった所か。広さも十分すぎるだろう。

 ここに昨日回収した沈没船を書庫から出す。

 なぜなら、タブレット上の沈没船をあれこれしてみても、中身を取り出す事ができなかったからだ。

 だから一度外に出してみようという話になった。

 

「そうだな、じゃあここに沈没船を固定する台をつくってくれ」


 リオンの土魔法により、谷底にV字型の土の台座ができていく。


「じゃあ、船を乗せるぞ」


 台座に沿うように大楯を動かしていき、巨大な沈没船をゆっくり書庫から取り出した。

 終えて見てみると、でかい。海中ではわからなかったけど、こんなに大きな船だったのか。

 こんなの人目のある場所でだせないな。

 横八ジィ、縦三十二ジィの堂々とした姿が現れると、三人とも無言になってしまった。


「この辺りで見る船と少し違いますね」


 あごに手を当てたクローリスのつぶやきで我に返ったので改めて眺めてみると、確かに少し角張っているというか、曲線が少ないような気がする。


「そういえばギルドマスターが、この船はホウライ皇国の武装商船だっていってたな」


 帝国の船と艦隊戦をやって、港に入れたのはこの船だけだったというけれど、乗員はどうなったんだろうか。


「えっ、初耳ですよ! それじゃこの中って貴重なホウライ皇国の交易品が入ってるんじゃないですか!? ラバ島の漂流物もまだ終わっていないのに、また増えるなんて……。これ、今年の夏は魔獣討伐をせずに終わりませんか?」


 これからの作業の多さを予想してか、クローリスがよろめく。

 さすがにそれはないぞ?


 飛び級をしまくった自分達がいうのもアレだけど、魔獣を倒して凝血石の納入することでギルドに貢献することが位階を上げる条件だ。

 しかし流されていることも事実。

 この件が終わったら積極的に魔獣狩りに出よう。


「わかった。定期的に魔獣討伐の日をもうけよう。今日の所は船内から品物を取り出してしまおう」


 近づいて船の壁を叩いてみる。

 フジツボなどで覆われているけれど、木自体はまだ全然腐っていないみたいだ。

 これなら崩れる心配も無いな。


「なるほど、そういうことならやっちゃいましょうか! ……で、どうやって入るんです?」


 銃剣から外したホウライ刀を片手に、足取り軽く船尾から船の左右を見たクローリスだったけれど、船の周りに人が入れるような穴がなかったらしい。

 この船は戦闘後、ゆっくりと沈んでいったらしいからな。攻撃で開いた穴も小さかったか。


「リオン、悪いけどもう一回土魔法を使って、今度は船の甲板に上がる階段をつくってくれないか?」


 横が駄目なら、入るのは順当に甲板から入るのがいいだろう。

 そう思い、上を見上げていたリオンに呼びかけたんだけど反応がない。

 また珍しい物をじっと見るクセが出たんだろうか?


「リオンー、きこえてます?」


「うわっ! ごめん、もしかして呼んでた?」


 クローリスが近くで手をふってようやく我に返ったみたいだ。

 相当集中していたな。


「呼んでましたよー。ザートが、船の中にはいるから階段をつくってくださいっていってます」


「う、うん。わかった」


 リオンは返事とともにコトダマを唱え、船の左側に船の台座と同じ土でできた階段をつくった。


「よし、じゃあいってみようか」





    ――◆ ◇ ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます。


この28話は短いので、29話と合わせてお読みいただくとキリが良いです!

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