第24話 竜種に対するボリジオの見解


「イルヤ神の力が込められた神種を取り込んだ動物が、一代限りの竜種と呼ばれる存在になる、と」


 話した内容を記したメモを手に取り、顎に手を当てたスキンヘッドの大男は低い声でうなった。


「ボリジオはこの話を聞いてどう思った? シャスカの話ではイルヤ神が消滅しても竜種自体は残るらしいけど、マコラに対する見方は変わりそうか?」

 

 神殿で覚醒した後、僕は竜騎兵隊の竜舎を訪れ、ボリジオに竜種の秘密を話した。

 ボリジオなら竜の専門家として、今回の話を冷静に受けとめて意見を言ってくれると思ったからだ。

 竜騎兵長はオルミナさんだけど、彼女は竜に肩入れをしすぎるきらいがある。


「イルヤ神を消滅させる事は決定事項なんですね?」


 僕は黙って頷いた。

 カイサルの記憶ではイルヤ神のサロメははバーバルと取引をしていた。バーバルの手がかりはこれからのバルド教との戦いでは欠かせないし、サロメの望みはアルバ神の消滅であるのだから彼女は倒さなければ危険だ。


「マコラに対する見方は個人的には変わりませんね。むしろ個人的には竜について色々な疑問がとけてほっとしていますよ。人に飼われた竜が繁殖しないのも、長寿であるのも、さっきの話を聞けば納得できます」


 そういってボリジオはテーブルに置かれたマグを手に取りゆっくりと傾けた。

 暑い日には熱いものが良いらしい。そうは言うけど、ボリジオって一年中そのどろっと辛い薬草茶飲んでるよね?

 エンツォさんといい、皆自作の飲み物を愛しすぎじゃないかな?


「ガンナー伯軍、白狼の聖域、ウジャト教団。どの立場でいってもバーバルとの戦いに負けるわけにはいきません。ティランジアを手に入れ、凝血石と信者を手に入れアルバ神様が力を取り戻すのは必須だと自分は考えます」


 ボリジオの強いまなざしにもう一度深く頷く。

 ボリジオは竜騎兵の中でもウジャト教団について熱心に学んでいる。

 ブラディアに行く時は常にアーヴル侯、つまりウジャト教団の教主であるマザーに謁見して教団の教えを受けているそうだ。

 教団の歴史については僕やシャスカより詳しいかも知れない。


「ところで、これは団長しか取り出せないのですね?」


 そういってボリジオはテーブルに置いた竜の種をつまみ、興味深そうに眺めた。


「ああ、メリッサに竜種を細かく解剖してもらった時は出てこなかった。今のところ植物として自生している種を見つけるか、僕の持つ神像の右眼で取り出すしかない」


 自生の条件はわかっていないのでリュオネと竜の墓場に行くときに調べる必要があるな。

 良い言い訳が出来た。時間ができたら早速つれていこう。


「今いくつくらいありますか?」


「そうだな、三十個弱って所だ。亜竜一体から手に入るのは小さな欠片だからな」


「十分です。飛竜の元の動物がわかれば竜使いの里人の目の前で竜を生み出す事ができます。里の若者は皆、自分の竜を持つ事が夢です。我々の元につけば竜が手に入ると教えれば皆喜んで配下に加わるでしょう」


 ボリジオが口元に笑みを浮かべ種をグッと握るので割れないかハラハラしてしまう。欠片からでも再構成できるけどさ。


「うん。それじゃ索敵が上手い冒険者に竜使いの里のまわりを調べてもらおう」


 エンツォさんの所にいる元冒険者なら適任だろう。


「団長、ところでこの、竜種がイルヤ神の眷属という一連の話は竜騎兵隊で共有してもよろしいでしょうか?」


 話が終わったのでテーブルの皿に追加のお茶請けを取り出しているとボリジオがメモを見せて訊ねてきた。


「ああ、構わないよ。万が一アルドヴィンに漏れてもイルヤの神種を取り出せるとは思えないし」


 ビザーニャで仕入れておいた焼き菓子のピノ・フィグをつまんでいると、部屋の扉がノックされていきなり開いた。


「団長気をつけろよ、言ってるそばから漏れてるぜ」


 そこには久々に見るバシルの姿があった。


「ああ、お疲れさん。声が漏れてたか?」


「普通の奴は聞けねぇが、俺みてぇな風使いはきく手段をもってるのよ」


 そういってバシルは風魔法で宙に舞わせた羽根を器用に踊らせた。

 なるほど、独自魔法を作るくらい風魔法に長けていれば遠くの音を聞いたりもできるのか。


「お前みたいな風使いの天才がそうそういてたまるか……いや」


「意外といんだろ?」


 ボリジオ、僕をみるんじゃない。


「まあそれは良いとしてだ。さっきの竜種についての話、皆に話すのはちょっと待ってくれねぇか」


 バシルが珍しく真面目な顔をしてきた。


「イルヤ神の眷属っていう所か。やっぱり竜使いにとっては聞きたくない話だったか?」


 最初にボリジオに相談した理由を思いだした。竜使いは竜と共に生き、神聖視する者もいるという。

 それが大陸を荒廃させた邪神の力をたまたま食べた単なる動物、と言われたら愉快な気持ちにはならないだろう。


「いや、俺や他の大抵の竜使いは割り切れる。野生で生きていた奴を力ずくで押さえつけて飼い慣らした経験があるからな。でもそうじゃない奴にとっちゃ割り切れねぇ話なんだよ」


 ボリジオが目をつぶり長いため息をついた。

 そう、ボリジオに相談したのは、本来相談すべき立場の人に相談できないと思ったからだ。


「……オルミナさんはなんであんなに竜に入れ込んでるんだ?」


 アルバトロスだけと付き合っていた頃はさほど気にならなかったけど、バシル達がクランに加入した頃から違和感を覚えるようになっていた。

 オルミナさんはビーコだけじゃなく、他のワイバーンにも兄弟のように接している。

 それがいけないこととは思わないけど、そろそろ理由を知るべきなんじゃないだろうか。


 バシルはテーブルの皿にのった焼き菓子を一つ口に放り込んだ。

 

「まあ、本人やショーンに聞いても普通に答えるだろうから言うけどよ。あいつは竜に育てられたんだ」


 竜に、育てられた?



    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます。


すみません、今回男しか出しませんでした。

しかもゴリマッチョのボリジオ……


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