第72話 戦いの総括


「これで終わりですか。今回も生き延びましたねぇ」


「なんだクローリス、いっちょまえに修羅場をくぐってきたような顔しやがって」


「実際くぐってるんだから良いじゃないですか!」


 城壁の上で騒ぐ幹部達も平原のクラン団員、開拓者も今回の勝利に沸いている。

 初めての本格的な大規模戦闘で勝利できたのだから当然だろう。

 平原に響く勝ちどきを聞きながら今後の事を思う。


「フハハハハ! 長年の因縁がほどけ、直接ではないとはいえ管理する大陸も得られ、言うことはないのう!」


 当然というべきか、一番テンションが高いのはシャスカだ。

 青の戦装束に風をはらませクルクルまわっている。

 今回のレコンキスタでイルヤ神を服属させたシャスカはこの大陸の管理権と力を得た。

 布教はこれからになるだろうけど、土地に加えて信徒が増えればさらに力が増す。

 

「お主もしみったれた顔をしておらずもっと笑え! 我が正式にこの大陸を管理するのじゃ。他の大陸の神に文句は言わせぬ。安心して土地を富ませるがよい!」


 誰の顔がしみったれているだ。

 けれど、土地についてはその通り、遠慮無く開墾できる。

 ティランジア沿岸に様々な大陸の神を奉ずる都市国家がある通り、管理神が不明な土地は自由に開拓していい。

 もしサロメを下さないまま開拓を進めていれば、せっかく魔土で富ませた土地を狙って他の大陸の国家が横槍を入れてきただろう。


「我らが予想外に早くサロメを下した事で今頃レムジア双大陸の双子神あたりは悔しがっておるやものう。土地が富んだとたんに権利を主張するなぞ神界裁判にでれば負けは必定じゃからな」


 意地の悪い顔をしているな。双子神様が何をやったというんだ。

 神様は正統性を重んじる神界の法に縛られているので、基本的に神は他の神の管理する大陸を攻めるのを嫌う。

 だから彼らに従う国家も、例え利益があっても、神の意向に逆らってまで侵略をする事は少ないのだそうだ。


「ま、神様の事情はともかく、ブラディア国の先兵、開拓を担当する狩人伯として安心して領土を広げられるのは有り難いよ。これでブラディア国の亡命先の確保ができる」


「これで農地を増やしていけばリザさんからの依頼もクリアできるよね!」


 横からひょいと顔を出したリュオネがなにやら物言いたげ笑顔で上目遣いをしている。


「ああ、土地を富ませる魔土を作るのはリュオネしかできないからね。よろしく頼むよ」


「うん、まかせて!」


 そっと前髪をなでるとリュオネは笑顔で耳を寝かせて頷いた。

 さっきまで今回はあまり活躍できなかった、とすねていたけど機嫌が直ってなによりだ。

 ティランジアの復活はこれまで竜種が根こそぎ奪ってきた血殻を土に戻せるかにかかっているのだから長い目でいえば一番活躍するのはリュオネなんだけどな。

 うちの白狼姫様はたまに強者の牙を求める所がある。


「お二人とも」


 咳払いとともに現れるスズさん。スズさんが何か言うときは大体空気がピリッとするから咳払いは要らないと思うんだけど。


「確かにサロメ=イルヤが竜種を使い溜めてきた血殻で土地をよみがえらせる事は重要です。が、まだまだこの大陸を平定したとは言えません。メドゥーサヘッド、ナーガヤシャ、あるいはハイムアのイルヤの民。シャスカ様に帰依してもらわねばならない存在はまだまだいます。あまり無駄遣いはしないように願います」


「わかってる。再生するのは必要な場所だけにするよ。それに、不毛な土地の方が守りやすい場合もある」


 ザハークの竜の軍勢で将を務めていたバリトール=ヴリトラを初めとするエルフとハイエルフがいる、東の大陸ゲルニキアの事を考えていた。

 彼らが攻めてくる場合もある。彼らを竜騎兵が空から確認するためにも、無人の場所は荒野のままな方が都合がいい。

 と考えていると目の前の軍勢がざわめきだした。


「ザート! フェダタイルに誰か乗っています!」


 クローリスの声に空を見上げると、大型鳥竜が弧を描いた後に南東へと去って行くのが見えた。


「逃がしちまってよかったのか? キビラならまだ追いつけるぜ?」


 バシルが文句をいいたそうな顔で訊ねてくる。


「いいんだ。乗っていたのは多分ゲルニキアの勢力だろう。彼らと直接対決するのはまだ避けたい」


 やはり空にも地上にも、監視体制を急いで整える必要がある。

 フェダタイルが消えるのを眺めながらそんな事を考えていると、ふと重要な事を思い出した。


「そういえば、やらなきゃいけない大事な事が残っていた」

 

 スズさんとフィオさんに頼むと、あっという間に軍が静かになった。

 整列し直したみんなに魔道具で語りかける。

 今日の戦いの激しさ、竜種を相手にして作戦通り、指揮官を信じて戦った忍耐強さに感謝した。


 報告では今日の激しい戦いで重傷を負った者も少なくない。身体は魔法で回復できても、経路に重い損傷を受ければいつか戦えなくなる。

 兵士としての寿命を思うとなおのこと彼らへの感謝の念が深くなる。

 勲功褒賞については後日することになる。

 けれど、今皆がそろっているこの場で見届けて欲しい事があるのだ。


「皆、今回の首謀者は古代から転生せずに生きてきたイルヤ神サロメだった。今イルヤ神は我らの神アルバの元に降ったが、権謀術数に長けた彼の神に僕も危うく命を落とす所までいった」


 静かに軍に動揺が走る。

 神器をもつ使徒が倒れれば信仰も危うい。僕が倒れれば今の集団が瓦解しかねないという危機感もあるだろう。


「けれど、僕の窮地を一体の真竜が身を挺して救い、サロメを倒した。傷ついた彼は今神器の中で眠っている。これから外に出てもらうから仲間として迎えて欲しい」


 ちらりと後ろを向くとボリジオが静かに頷いた。

 騎竜を含めた竜騎兵隊には城壁に横一直線に並んでもらい〝懐かしい〟仲間の登場を見届けてもらう。




【後書き】

お読みいただきありがとうございます!

今回少し出ている巨鳥竜フェダタイルですが、ゲルニキア軍監のハイエルフ、ソニヤが乗っています。

彼女もいずれ再登場する予定です。


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