第11話【領都出立準備】


 心と胃袋を満たした僕らは、まだ宵の口だけど肉料理店からでた。

 すれ違う冒険者達は皆、戦いにおもむく戦士の顔をしている。

 わかる。すごく美味しかったもの。


「満足した。やっぱり肉は良いね」


 リオンも満足そうだ。レイヨウ鹿のローストやモスマトンの煮込みをさらっと食べていた。

 僕は赤身だけだと物足りないから縞イノシシのステーキを食べた。

 普通のイノシシみたいな脂の旨みが控えめな代わりに肉質がきめ細やかで、ふわりとした歯触りと柔らかい味の肉汁が美味しい。

 野営の時に見つけたら是非仕留めて食べたい。


 それに二人で食べた帽子ウサギのシチューも美味しかったな。

 さすがリザさんおすすめの名店だった。


 食べた料理は持ち帰りも出来たので買い込んでおいた。

 もちろん書庫に収納して後で食べるためだ。

 人目が無いのを確認してから、手に持った絶品肉料理の数々を書庫に収納する。

 光の板を開き、全種類はいっているか確認する。

 そしてうれしい新事実が判明した。


「どうしたのザート?」


「ジョアンの書庫に料理のレシピが書かれている」


 詳細説明のページの料理方法という文字に触れるとレシピが出てきたのだ。


「じゃあ今日食べた料理を自分達でも作れるんだ!」


 たしかに、依頼をこなしていれば野生の食材を手に入れる機会はいくらでもある。

 料理を勉強中のリオンと一緒に作るのもいいな。

 それに行く先でたべた料理のレシピ集めという旅の楽しみができてしまった。


 無邪気に喜ぶリオンと歩きながら今後の事を考えているうちにウィールド工房の前に着いた。


 ウィールド工房で預けた武器を受け取れば、領都でやるべき事は終わる。

 僕の剣はすぐ研いでくれただろうけど、さびた名剣の研磨はおわってないかもしれないな。

 柄とか拵えも用意しなきゃいけないだろうし。


「こんばんは」


「おー、今朝ぶりー。なんか大変だったらしいねー」


 カウンターで寝ていたジェシカが顔を上げてきた。


「うん、大変だったんだよ。で、さっそくなんだけど、預けたものの研ぎはできてる?」


 こっちの事情を知っているなら話は早い。

 ジェシカがカウンターの下から三振りの剣とナイフを取り出した。

 それぞれ鞘から抜いていき、確認する。

 自分のショートソードは新品同様になり、発掘品も錆身の時からは想像できない輝きを放っている。


「柄とさやはサービスだって。親方はよっぽど古刀の分析をしたかったんだねー。すごい勢いで仕事を片付けて今は炉の前でうなってるよー」


「そうか。じゃあ邪魔したら悪いし、このまま持ち帰らせてもらうよ。後は発掘品二本の対価だな」


 展示された刀剣を見まわす。

 何でも二本って言われたけど、どうしようか。

 

「海で戦うならカトラスが良いって知識では知っているんだけどね……」


 ショートソードなど片手直剣と、カットラスなどの片手曲刀を持ちかえる冒険者はいない。なぜなら使うスキルが違うからだ。

 共通した所もあるので戦えないことも無いけれど、結局はスキルを得た武器を使う方が良い。


 でも僕はそもそもスキルを持たずに戦っている。

 一番なじんでいるのがショートソードだから使っているけれど、カットラスもある程度使い込めばショートソードと同じくらいには使えるだろう。


「これを機に曲刀を使ってみるか」


 しかし、片刃の刀がかかっている壁を見ても迷ってしまう。

 というか、ショートソードの時とは違い、どれを選ぼうと練習することに変わりはないんだ。


「リオン、どれか良いと思う物ある?」


「おいー、聞く相手ちがうぞ−」


 ジェシカが文句を言ってくるのにかまわずにいると、リオンが二振りの刀を指さした。


「あの二振りはホウライの良い刀だよ。それと普通の片手曲刀だと、東ティランジア風の、これが良いと思う」


 独特の外見をしたホウライの刀を鞘から抜いてみると、青く澄んだ刀身が現れた。

 吸い込まれるように見入っていると、ジェシカがそばに寄ってきた。


「それをもっていくなら一振りにしてくれるとうれしいかな。ホウライ刀の一級品なんだよー」


「そうか。僕が聞いたことも無い国の物だし。入手も難しいんだろうね」


 希少な武器を全部持って行ってしまうのはさすがに遠慮する。


「ロングソードと同じで粗製のものなら港に行けばあるから、練習はそれを使うといいよー」


 なるほど。じゃあ必然的にもう一本は東ティランジアの片手曲刀になるな。


「その二振りね。親方には伝えとくー。また宿でねー」


 ウィールド工房を出ると日は完全に落ちていた。


 さあ、宿に戻ったら今日買った荷物の整理をしよう。




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