第67話【装備新調】


 食事後、僕らは買い物に出かけた。

 メインだった武器防具店を出る頃には太陽がだいぶ傾いていた。

 この季節には珍しく顔を見せている太陽がまぶしくて、目が慣れるまで逆にある東の空をながめる。

 春先にブラディアに着いた頃はかすんでいた空も、夏の色を帯びつつあるようだった。



「おまたせザート」


 今出たばかりの扉から、装備を新調したリオンが出てきた。

 ラピスラズリ色をした女性用のギャンベゾンで、外側の細かい紺色の筋金と茶色のベルトがアクセントになっている。

 戦闘時には詰め襟になる胸元も、今は街着のように折り返して開いていた。


 今の季節に咲くスイギクのような淡い水色のシャツを合わせてくるあたり、リオンはけっこうオシャレ好きなのかもしれない。


「う……外でみると、やっぱり派手だったかな? 冒険者なのに……」


「いや、そんなことない、似合ってるよ」


 こちらが黙っているのをネガティブに受け取ったのか、リオンが困り顔をしていたのであわてて否定した。


「私も、そっちのレザージレは良いなって思うよ」


 僕が買ったのはカフィアの羽毛のようにうっすら茶色い、ジレ型の革胸甲だった。

 前はただのジレだったけど、これはリバーシブルで、内側は筋金付きの鎖帷子になっている。

 戦闘時は裏返し、リオンのようにえりを立てて戦うものだ。




「それにしても今日は散財しちゃったね」


 それぞれの服で軽く十六万ディナは超えているし、他に買った食料、消耗品の類いの分もある。

 もちろん、多めに買ったそれらは書庫の中だ。


 僕らは明日に第二要塞を発って、リオンの粗製ロングソードを手に入れるため、第二港へと向かう。今日は一日防具の新調や消耗品の補充などをしていたのだ。



 帰り道は少し遠回りをして、屋上を渡る道でコロウ亭に帰ることにした。

 大きな街路樹のないこの街では、屋上はほとんどが暑さよけに土がかぶせられている。

 日を追うごとに緑濃くなるのはそれぞれの家の住民が植物を植えているからだ。


 パショネ、ゲラン、ガルデニア。

 横を通りながらリオンがなでているのはどれも雨期に一気に育ち、花を咲かせる園芸種だ。


 自然という意味では野草があふれる地上も良い。

 けれど、出城の空中庭園も、植物以上に、好きで庭造りしている人の愛情が感じられて良い。

 目の前でゆっくりと語りかけるように、花のふちに細い指をおどらせているリオンも同じように思っているんじゃないだろうか。


「ザートも好き? こういうの」


 視線に気づいたリオンが照れくさそうに笑いながら訊いてきたので黙ってうなずいた。






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