第43話【年末クラン納会】


「留守番を任せてしまってすまないな」


「気にしないで下さい中尉。アタシらは普段外ばっかり回ってますから、大祓おおはらえにシリウスで羽を伸ばせて有り難いくらいですよ」



 留守番をかってでてくれた第八の連絡担当達に見送られながらほぼ無人となったシリウスを後にした。


 まだ日も高い年越しの晴天のもと、第三十字街は、街始まって以来の活況につつまれている。

 長城とつながっている露天部で働く人々の足取りは軽く、宿屋では気の早い冒険者が酒を飲み始めていた。


 ティルク人難民を僕たち【白狼の聖域】が保護した事で、第三十字街はこの半年の間に人口が一気に増えている。

 アルドヴィンからの難民の多くはそれぞれの生業を再開したり、なんらかの職をえており、難民と呼ぶのをためらうほど活気に満ちた生活を送っている。


 彼らと取引する商人が増え、農作物を持ち込む近隣の農民が増え、冒険者が増え、飲食できる宿屋が増えた。

 人が人を呼び、今日の活況にいたったわけだ。


「わぁ……! 上もすごいけど、下も賑わってますねぇ」


「人の熱気がすごい、パトラとは全然違うよ」


 一足先にドームの中、第三十字街の地上部をみたクローリスとリュオネが歓声をあげている。


「おぉ……これはすごいな」


 壁にずらりと並んだ屋台の前に多くの人々が列をなしている。

 そこから少し離れた場所では土魔法を使える冒険者が勝手に土魔法をつかい椅子とテーブルをつくっている。

 いつもなら、街中で魔法えば行政府の警備兵がとんでくるんだけど、今日は駆けつけるどころかその横を素通りだ。


 年末だから大目にみているのか、数が多すぎて諦めているのかまったくとりしまる様子はない。

 地上部は活況を通り越して混沌としていた。


「はやくこのなかに混ざりたい……! ザート、一足先に小腹を満たしたら駄目ですか!」


「クランの納会が終わるまで我慢してくれ。みんなが練兵場で待ってるんだから僕らも早くいくぞ」


 そういって人混みに向かって進むと、ミワを中心にした衛士隊がごく自然に人混みを割り進んでいく。

 彼女達も最初は普通の冒険者だったのに、皇軍式の訓練をうけ、いまでは立派にリュオネの警護役を務めている。

 当人は冒険者っぽくないのが嫌なのか不満顔だけど。


「……ねぇザート、王都の有名料理店の屋台がたくさんあるんだけど、売り切れないよね?」


「売り切れません。せっかくの稼ぎ時なのに、昼の時点で売り切れるなら商売人失格です」


 こっちも食事の事考えてた!


 屋台の前でたびたび立ち止まろうとするクローリスとリュオネの背中を衛士隊達が押し、僕たちはドームに一時の別れを告げた。 



「では不肖わたくしクローリス、一年の振りかえりをいたします! 私、スキルには恵まれておりましたけど、戦闘スキルは使えないものばかりでした。すべて銃剣がなければ使えなかったんです」


 練兵場の壇上でクローリスの話が進むにつれ、団員達の顔が曇っていく。

 リュオネが皆への慰労の言葉をかけ、僕が戦意を鼓舞し、他の幹部が組織の発展にむけての言葉を述べてからの、これである。

 団員は困惑するしかない。なぜここで個人的な振りかえりをするのか。


「……そういうわけで、銃剣は、銃はすごいんです! 私は来年も引き続き技術部を率い、新たな銃の開発を行います! もちろん、技術部では具足やその他装備も開発、量産していきます。ふだんは戦闘職の皆さんとはあまりからまない技術部ですが、今日は皆で一緒にさわいで親睦を深めて下さい!」


 なんだよ、最後はみんなの親睦をうながすなんてやるじゃないか。

 クローリスのかけ声と一緒に皇国式にシャンと拍手が打ち鳴らされ、皆が歓声をあげ列をくずしていく。

 演壇から降りてきたクローリスがこちらをうろんな目で見ていた。


「なんです、拍手しているわりには不満な顔してませんか?」


「いや? 無難にしめたから感心してたんだけど?」


 自分の顔を触ってみるけど当然表情はわからない。

 首をひねるとクローリスがにやりと不敵に笑って見せた。


「どうせ納会の話で私がぐだるとかそういうのを期待したんでしょう? でも私だってしめる時はしめるんです」


 ふむ、そういえばグランベイで出会った時もぐいぐい来たけど入る時やお金についてはきっちりしていたものな。

 僕だって根が真面目なのは理解している。


「やるときはやる奴だって僕はわかってるよ。主力部隊にとって衛士隊はリュオネと一緒だからわかるし、竜騎兵隊は練兵場に竜舎があるから仲良くなる。でも技術部だけは工廠だけで仕事するから主力部隊と交流不足だと見抜いていたなんて、成長したなクローリス」


 クローリスが一瞬めんくらった顔をして赤く無ったかとおもったらにらみつけてきた。

 素直に褒めたんだけど変だな。


「なんですかその上から目線! ザートが冒険者になったのは今年からじゃないですか! 私の方が冒険者としては先輩なのわすれてません⁉」


 そうだった。

 クローリスはグランベイに来る前、帝国でも冒険者をやってたんだったな。

 聞いたことないけど、もしかしたら年齢も僕より上なのか?


「やるときにだけやると普段との落差で成長したように見える。だから僕は悪くない」


「うっ」


「クローリス、あなた十八でしょう。二つも下のザートの落ち着きようをみならったら?」


「年齢は関係ないですよ!」


 あ、やっぱり年上か。

 もっとも、年齢が上でも僕は他人への評価を変えない。

 普段からわめかないで、落ち着いて仕事をしていれば僕だってそれにふさわしい対応をする。

 あとついでに僕への悪口もひかえるのも付け加えておこう。




    ――◆ 後書き ◆――


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