第4章 盗まれたスペルブック編

第193話 スペルブックと、暗号と、死へのカウントダウン

Side:ファラド当主


 うむ、白衣も全滅か。

 残ったのは透明腕のみ。

 さきほど透明腕から、タイトのスペルブックが届いた。


 分からん。

 何という暗号。

 既存のどの言語にも当てはまらない。

 読み方さえ分からん。

 一文字も解析は進んでいない。


 文字だという事と法則性があるのは分かる。

 しかし、この複雑な言語はなんだ。

 文字の種類は一体いくつあるのだ。


 暗号の為に言語を創造するとしても、ここまで複雑にする必要があったのか。

 奴はこれを詠唱したり、無詠唱できたりするのか。

 もしかして、これはわざと盗ませたダミーではないだろうか。


 解析したら、日記だったなんて落ちかも知れん。

 くそう。


「透明腕を呼べ」


 ほどなくして透明腕が来た。


「来ましたぜ。何用か?」

「タイトのスペルブックは見たか」

「見事な暗号だった。ありゃ解読には骨が折れるな」


「うむ、スペルブックが偽物という事も視野に入れればなるまい。それで透明腕を総動員してタイトからヒントの一片で良いから、探りだせ」

「おう、了解したぜ」


 報告書をめくる。

 またか。

 報告では最近、魔導師の変死が相次いでおる。

 外傷なし毒もなし、生きている時は病気の兆候もなかった。

 これは何なのだ。

 見えない即死魔法の殺し屋が殺して回っているとでも。


 殺された者の中にはファラド一族という事を隠していた者もおる。

 どこで秘密がばれたのだ。

 もしや、ファラド一族の中に裏切り者が。

 その可能性も捨てきれないな。


 別の報告書をめくる。

 魔導師だけ罹る病がという噂がある。

 ふむ、魔導師の変死は病か。

 薬の開発を急がせねば。


 わしは執務室を出て、実験部屋に入った。


「キメラの実験は中止だ。魔導師変死の原因を突き止めろ。病だという噂もある。考慮に入れろ」

「はい。この部屋の魔導師の幾人かも亡くなりました。詳細な身体データは揃ってます。原因の特定も容易いでしょう」


「期待しているぞ。ところで、スペルブックの解析はどこまで進んだ」

「よく使われている文字を抜き出しました。驚く事に2百を超えます」

「我々が使っている言葉は23文字。数字を入れて33文字だ。多すぎる。まずは数字と母音を突き止めるのだ」

「かしこまりました」


 わしは修練場に向かった。

 ふむ、タイトの魔法は分からんが、市場での石の魔法は見事だった。

 あれは体全体を覆う必要なぞない。

 石のマスクを作って鼻と口さえ覆ってしまえば良いのだ。


 わしは、修練場のドアを開いた。

 剣の練習の為の藁の人形がいくつか設置してある。


 その一つに向かい。


「【石で覆面を作れ】。うむ、使えるな。次は」


 鎖で繋がれているゴブリンに向かい。


「【石で覆面を作れ】。うーむ、失敗だ。体表のすぐそばは魔力があって弾かれるか」


 大きめに作らないといけないのか。

 それでタイトめはあの大きさにしたのだな。

 一般的に魔力が多い者ほど、漏れている魔力も多い。


 これを暗殺手段に使うのは現実的ではないな。

 特に魔導師や貴族の暗殺は無理だ。

 魔王級の魔力の多さがあって初めてなしえる事だ。


 タイトは腹の中に毒を発生させたとも聞く。

 肛門から魔力を侵入させたのだろう。

 とすると、魔力の膜は力技で突破したのだな。


 奴が石を口の中に発生させなかったのは消費魔力もだが、制御が出来なかったのだろう。

 石の箱を作るのと、細い穴を通すのでは、難易度が違う。

 何十もの標的をいっぺんに始末するには、確かに箱の方が良い。


「【魔力よゴブリンの口から侵入、口内で石を作れ】。ふむ、わしの魔力では突破できんか」


 魔力量が欲しい。

 いくらでも欲しい。

 最近噂の、魔力が1万上がる魔道具を使ってみるか。

 普段は一つで、戦闘時は100個ぐらい使えば、わしは無敵だ。


 少し疲れた。

 孫のラチェッタの顔でも見るとしよう。


「お爺様、お疲れのようですが」

「ラチェッタの顔を見て元気になったわい」

「私、魔法を覚えたの。【石の薔薇】」


 ラチェッタが石の薔薇を作る。

 造形におかしな所はない。


「見事じゃ」


 草花はイメージが容易い。

 石もだ。

 結局、魔法はイメージが全て。

 シンプルな真理だ。

 やっぱり、そう考えると、魔力を抜きにすれば、タイトの石の箱は容易い。


 だが、タイトのスペルブックは容易くない。

 魔王の能力ならあの暗号が容易いのだろうか。

 ぐぬぬ、わしに敗北感など無用。

 わしは負けてない。

 負けを認めんうちは負けてないのじゃ。

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