第249話 離反と、挑戦と、戦う学者

 スコットが鼻息を荒くして押し掛けてきた。


「大変です。魔導師の半分が離反しました」

「そういう事もあるかもな。それでどういう主義主張をしている?」

「力こそ正義です。鍛える事を目標に掲げるなら良いのですが。力があれば全て許されるという考えのようです。今は犯罪者と手を組んで力をつけようとしてます」


「悲しいですね」

「ラチェッタ様のお耳には入れたくなかったのですが、やつらの短期目標にラチェッタ様の奪還が入っています」

「そうですか。わたしの為に争いが起きてはほしくないのですが、仕方ありませんね」

「切り捨てるおつもりですか?」


「ええ」

「犯罪組織を更生させるならともかく、犯罪組織に力を与えるような奴は救いようがない。タイトがそう言っていたと伝えておけ」

「そう伝えておきます」


「その様子だと、連絡は着くようだな」

「元が同じ組織ですから、交流は途絶えていません」


「伝えて頂けませんか。純粋に力を求めるなら、真摯に鍛錬してみたらどうですかと」


 それはそれで戦闘馬鹿が出来そうだけどね。


「分かりました。ですが、たぶん聞く耳を持たないでしょう。私もですが、生き残ったのは力の無い魔導師です。伸び悩んでいるのです。犯罪に手を染めてでも状況を打破したい。そういう気持ちなのです。魔王様にはお分かりにならないでしょうね」


 分かるよ。

 前世では大した事が出来るプログラマーじゃなかった。

 長くやると知識は蓄積していくけど、画期的商品を作るのは、プログラマーとしての腕はあまり関係ない。

 アイデアなんだよな。

 才能のある奴には敵わない。

 世の中の求めている物に気づいた奴が成功する。

 偶然でも何でもだ。


「運と閃きだよな。そう思う。まあそれも実力のうちなんだけどね」

「そういう物ですか」

「だから成功しない奴は、努力を諦めて安易な道に行く」


 商品だと類似品を作る。

 簡単だからな。

 でも本家を追い越す事は普通なら出来ない。

 そうするとただ駄作を作る会社になってしまう。


 俺の前世の会社もそうだった。

 他社の類似品を作る会社だった。


 離反した奴らは、前の体制の類似品だな。

 悪事を働けば強くなれると思っている。


 別の道をいかなければ発展はない。

 前の体制は古臭くなって終わった商品なんだからな。

 大幅バージョンアップが必要だ。

 別物と思えるぐらいのな。

 そういうのをやって失敗する会社も確かにある。

 でも挑戦しない事には始まらない。


 終わった商品の類似品じゃ駄目なんだ。


「安易な道ですか」

「険しい道を選べば失敗する事もある。安易な道より結果を残せないかも知れない。でも挑まないと発展がない。だから、行き詰る」

「生まれ変わるのは難しいのですね。私は魔導師資格を取れば良いとだけ思っておりました。困難な道に挑まないといけないのですね」


「ラチェッタは若いんだから、失敗は何度でもできる。やりたいようにやれば良いさ」

「とりあえず魔導師の学者化で行ってみますわ。それで失敗しましたら、治癒師化みたいな模索を色々と、挑戦してみる事に致します」


「ラチェッタ様の考えは分かりました。新な道を貪欲に求めていくのですね」


 道のりは難しいけど色々と道はあるさ。

 伝言魔法を使った魔報を発展させていって、郵便事業で生き残りを掛けるのでも良い。

 俺なら幾つかそういうのにもアイデアがある。

 だけどラチェッタが切り開いていくべきだな。

 学者化のアイデアを俺が出したのは大きなお世話だったか。


「スコットさん、戦える学者を目指しましょう。弱き者を助けるのです。知識の力で」

「立派なお考えです」


 戦う学者か、軍師集団みたいになるのかな。

 そういう方向も良いかもな。

 弱き者を助けるという義侠心は民衆に受け入れられるだろう。

 反乱とかで地に落ちた評判も少しずつ回復していくに違いない。


「まずは村を滅ぼされる前に蓄えた知識を集めましょうか。そして、危険な物は封印して、使える物は発展させていきましょう」

「さっそく取り掛かります」


 危険な技は便利な物があるんだよな。

 プログラムだと再帰呼び出しみたいな奴。

 一概に否定する事もないと思うけど、それがラチェッタの若さなんだろうな。

 包丁だって人を殺せる。

 でもちゃんと使えば、感動させる料理も生み出せる。

 要は使う人の心なんだよな。


 むやみやたらに公開するのも不味いけど、やたら封印するのも良くない。

 でも、そういうのはラチェッタが失敗しながら覚える事だ。

 俺が口を出すべきじゃないな。


 好きにやったらいいさ。

 俺だって、正解なんか分からない。

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