第5章 魔戦士編

第248話 大掃除と、処分と、歴史は繰り返す

「そっち、危ないよ」


 俺達はいま大掃除。

 おも研の部室を片付けている。

 私物がけっこう溜まっているな。


 ラチェッタは意外にテキパキと掃除をしている。

 箱入りじゃなかったんだな。


「うおっ」


 ベークが物につまづいて、ラチェッタを押し倒す。


「きゃっ」

「ごめん」


 赤面して見つめ合う二人。

 見ていて微笑ましいな。

 二人は放っておこう。

 好きにいちゃつくがいいさ。


 それにしても、本が多いんだよな。

 エミッタより前の会長の蔵書らしき物が多数ある。


 ゴブリンのひと夏のロマンス。

 魔石の食し方。

 幻の餡デッド


 タイトルだけじゃ内容が分からん。

 ゴブリンのひと夏のロマンスは、雌ゴブリンが避暑に出掛ける。

 その先でオークに絡まれる。

 颯爽と現れる雄ゴブリン。

 展開が見えてきたな。


 ゴブリンの恋愛がなんで面白いのか分からん。


「それ、禁書ですわ」


 レクティがそう教えてくれた。


「たわいのない物語だろ」

「それに出てくるヒロインは王族です。そのまま書くと不敬罪にあたるので、ゴブリンに置き換えています」

「実話なの?」

「ええ、未婚の王女が父親の分からない子供を授かって、大スキャンダルだったと聞いています。真実らしいですわよ」


 どんな奴が執筆したんだろ。


「レクティ、処分してくれるか?」

「はい」


 ゴブリンのひと夏のロマンスは処分された。

 ベークはまだ、ラチェッタと見つめ合っている。


「こほん」


 俺はベークのすぐそばでわざとらしく咳払いした。


「ごめん」


 ラチェッタの胸からベークが手をどかした。


「いいえ」


 急いで立ち上がり埃を払う2人。


「ベーク、試験勉強は進んでいるか。単位を一つもとれないと見込みが無くなるぞ」

「分かっている。僕だって頑張っているんだ」

「努力じゃだめなんだよ。結果を出さなきゃ。過程に価値があるなんて、言う奴は余裕があるんだよ。また頑張れば良いさなんて言っていたら、卒業出来ないぞ」

「くっ」

「暗記するにも頭を使え。年表は語呂合わせで覚えろ。計算は難しい問題だけ魔法を使うんだよ【魔法よ答えろ。1+1は?】みたいにな」

「なるほど」

「効率よくやるんだよ。九九は覚えろよ。暗記ものはストーリーを作ると覚えやすい物もある」

「九九って何?」

「1から9の掛け算を全て丸暗記した奴だ」


「参考書作ってくれよ」

「幾らで? はっきり言って高いぞ」

「くそう、勘当さえされてなければ」


「リニアがさぼるんじゃないと睨んでる。掃除するぞ」

「へーい」


 ベークはどこでそんな返事を覚えたんだ。

 きっとバイト先でだな。


 何のモンスターの骨なのか分からない骨格標本を片付ける。

 足が6本あるぞ。

 見た事ないというか、どういう進化したんだ。


「偽物ですね。お父様に売りつけに来た詐欺師が、これと同じ物を持ってました」


 レクティがまた説明してくれた。


「じゃあ、捨てよう。骨は燃えるゴミで良いのかな」


 燃えないような気もするな。

 埋めてやろうか。

 そうしよう。

 供養だ。


「穴を掘ってくれ。骨を隠すの好きだろ」


 学園の庭にいるサイリスにそう声を掛けた。

 サイリスは骨を齧り始めた。

 埋めなくても良いか。


 役に立って良かったよ。


 お次はポスターだな。

 女性を書いた物が多い。

 そう言えば前世で同僚が、ビールのポスターを壁に貼ったら、彼女に破かれたと言っていた。

 水着ぐらい良いじゃないか。

 ヌードを貼っていた奴だっているぞ。


 脱線した。

 ポスターは売ろう。


「レクティ、ポスターは売ってくれ」

「これ、幻のキロックの絵ですね。ですが、偽物です。落款が違いますね。偽物でも好事家は買うと思います」

「これで一つ片付いた」


 お次は、箱に入った人魚の干物だな。

 これは聞かなくても分かる。

 ゴブリンの上半身と、魚を合体させた物だ。


 面白いけど、価値がない。

 処分したいけど燃えるゴミに出したら、回収する業者が驚かないだろうか。

 そうか上半身と下半身を真っ二つにすれば良いんだ。

 人魚は処分出来た。


 お次は魔道具か。

 解析すると時間が掛かる。

 いきなり起動して爆発でもしたら大惨事だ。


 よし、箱に詰めて仕舞っておこう。

 箱に魔道具と書いておけば問題ないな。

 興味がある奴がいたら、好きに持っていくがいいさ。


 だいぶ片付いたな。

 部室の半分が綺麗になくなった。

 また溜まるんだろうな。

 そしていつの日にか後輩が片付ける。

 それもまた良いかもな。

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