第280話 戦闘勃発と、トレンと、決着

「大変だ。魔戦士が暴れている」

「こっちもよ」


 俺達とは離れて、別のグループと狩りに行っていたベスとコネクタが駆け込んで来た。


「仲間を見捨てたの?」


 セレンが二人を咎める。


「この判断は正しい。学生の手に負えないなら、俺達が対処するしかない。是非はともかく急ぐぞ。みんなは別れて対応してくれ」

「「「「はい」」」」


 さあ、ラチェッタとベークの理想は通用するかな。

 現場に行き、暴徒鎮圧用の重力球の魔法を起動すると、魔戦士と生徒が一塊になる。


「ラチェッタ、説得してみろ」

「愚かな争いは辞めるのです。あなた達は何の信念で暴れているのですか」

「暴れたいから、暴れているのに決まっているだろう」


 さあ、どう応える。


「私達は誇り高いファラッドの民ではなかったのですか」

「知らねぇなぁ。栄耀栄華を夢見て何が悪い」

「別の地で楽園を実現しようとは思わないのですか」

「はははっ、奪った方が楽しいし、らくだろう」


 ラチェッタも説得が無理だと思ったのか、何も言い返さなくなった。


「法には従ってもらう。王族への反抗は死刑だ」

「ちょっと待って下さい」


 まだラチェッタには言いたい事があるらしい。


「言いたい事があるなら早く言え。こうしている間にも生徒に被害が出るかもな」

「心を入れ替えて下さい。お願いします」

「やなこった。命などとうに捨てている」


「気絶させて下さい」


 俺は言われた通りに魔戦士達を気絶させた。

 ラチェッタが後で説得できるか見物だ。


 マイラの所に行くと、足を斬られて気絶した魔戦士が転がっていた。


「殺した方が良いけど、今回はラチェッタの顔を立ててあげたわ」

「ありがとうございます」


 リニアの所に行くと、魔戦士は殴られて気絶していた。

 手加減したんだな。


 レクティの所に行くと、魔戦士は麻痺していた。


「ラチェッタさんの顔を立てたわけではありませんよ。情報を絞り出すためです」


 セレンの所に行くと、魔戦士は痛みでのたうち回っていた。


「心臓に一撃の方が、残酷ではないですね」


 たぶん、魔戦士の本隊はトレンの所だろう。


 トレンを探してうろつく。

 途中、魔戦士の集団と何度か会ったが問題なく対処できた。

 即死でなければ生徒達は回復する。

 魔戦士も殺しまではしてないようだ。


 戦闘音がする。

 駆け付けると、トレンとミカカ語クラブの面々が奮闘していた。

 魔戦士にはモンスターが味方している。

 モンスター使いがいるようだ。


 どうやら、魔戦士幹部のペントードがその人物らしい。

 それと見知った顔を見つけた。

 ロータリ国商人のアルニコだ。


 魔戦士の中にロータリ人がいるとは知っていたが、商人で支援している人がいるとはな。

 トレンに魔法の集中砲火が浴びせられる。

 火球は効果が薄いとなり、石弾が主戦力になっている。

 トレンは被弾しているが、意に介さないようだ。


 次々に魔戦士を討ち取っている。


「何をしているのですか。この一戦にロータリの命運が掛かっています」

「トクナカ・ナセ」


「魔力で体の強度を増している」

「なるほどクレーターを作る程、壁に叩きつけられても平気なのはこのせいか。セレン、モンスターをやってしまえ」

「はい」


 俺と腸内細菌の毒化で、セレンは石を転移させてモンスターを倒す。


「マイラとリニアは魔戦士を気絶させろ」

「任せて」

「こんなの簡単よ」


「わたくしの出番はないようですね」

「レクティは暗殺を警戒してくれ」

「分かりましたわ」


 ペントードにマイラが肉薄。

 足を斬ってから顎に肘を打ち込んだ。

 モンスターの支配が解ける。

 大半のモンスターは逃げたので、俺とセレンは楽になった。


 マイラがペントードを引きずろうとして、何かに気づいた。


「毒を飲んでいる」


 故意か事故かは分からないがペントードはあっけなく死んだ。

 やはり魔導師、とくに魔戦士の質が良くないな。

 魔導師の落ちこぼれだったのかな。


 リニアがアルニコを捕まえてきた。

 トレン達は掃討戦に移っている。


「アルニコだったよな。商人なのに裏工作もするのか」

「分かっているだろ。ロータリ商人の半分以上はスパイだ」

「まあそうだろな。商業の国だもんな」

「ぐふっ」


 アルニコも毒を飲んだようだ。

 ロータリとしてはトレンを殺して、ディッブとこの国が戦争する事を望んだのだろう。


「助けに来なくてもよかったのに」


 トレンの語気が荒い。


「私に勝ってから言うのね」


 マイラが挑発するように言った。


「トクナカ・ナセ!」

「なんて言っているのか分からないけど、負け惜しみよね。みっともないったら」

「トクナカ・ナセ!」


「とにかく死なないで良かったよ」

「リッツに完全回復してもらったから、このぐらいは平気よ」


 リッツに完全回復の魔道具を持たせておいて良かった。

 役に立ったようで何より。


「兄さん、目立てなかった」

「妹よ、俺達は戦闘狂にはなれない」


 ベスとコネクタも魔法で援護していたのは知っているぞ。

 良くやった。


「私は無力ですね」

「君はそのままでいい」

「ベーク様」


 ラチェッタとベークも魔法で援護していたのは知っているぞ。

 非殺傷魔法だったが、気をそらすのに役に立ったと思う。

 ラチェッタはこれから大変だ。

 捕虜にした魔戦士を改心させないといけない。

 出来るかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る