第281話 奴隷化と、お風呂と、覗き

 さあ、ラチェッタは説得できるかな。

 魔戦士一人を起こした。

 マイラとリニアがいつでも止めを刺せるように構えた。


「力で手に入れた地位は力で奪われます。虚しくはないですか?」

「今のこの国も侵略して出来た物だよな。俺達が力で奪おうとして何が悪い」

「それでは進歩がありません。負の連鎖を断ち切ろうとなぜ考えないのですか」

「楽して美味い物を食って美女を抱きたい。そのためには何が犠牲になろうが気にしない。負けたんだから殺せよ」


 ラチェッタの顔が歪む。

 もどかしさとか悲しさとか色んな感情があるんだろうな。


 答えなんか出ない。

 俺だったらどうするかな。


「敗者は勝者のいう事を聞く。スラムの掟」

「力で従わせても何にもなりません。でも一体どうしたら?」

「わたくしなら、幸福を味わわせて心を溶かしますね。暴力の言葉が出ないぐらいにドロドロに」


 まあ、牙を抜くというレクティの考えも一理あるな。

 俺だったら奴隷化の魔法を使うだろうな。

 栄光か死かなんて考えのお馬鹿さんには、付き合えない。


「どこかに集めて働かせるのが良いと思う。労働の楽しさを知ればまともな人間になるはずだよ」

「タイト様出来ますか?」

「色々と方法はあるけど、たぶんラチェッタの気のすむことには、ならないと思う」


 どうしても逃亡防止は必要だからね。

 自動迎撃の魔道具で檻を作る事も可能だし、奴隷化して命令しても良い。

 だけど、囚人扱いになってしまう。

 俺としては騒ぎを起こしたのだから、罰として囚人扱いでも良いと思う。

 ラチェッタは気に入らないだろうな。


「分かりました。命が助かるなら、やって下さい」

「【奴隷化】。魔法を受け入れろ」

「嫌だ」

「ならば死ね」


 魔法を受け入れたようだ。

 口では殺せと言ったが死ぬのは嫌なのだな。


「命令する。村で大人しく暮らせ。そうだな懲役は30年だな。30年経ったら奴隷化を解いてやる」

「はい」


 結局、俺が裁判官か。

 成人してないから、本当は何も権限はないけど、まあ良いよね。


「これで良かったのでしょうか」

「枷が必要なんだよ。それでバランスが保たれている。そういうものだ」

「スラムでもルールはある。破る奴は大抵死ぬよ」

「率いる者のカリスマであれ、暴力であれ、何であれ確かに枷で縛られていると言えますね」

「なんか嫌。自由に生きたい物ね」

「法律は必要」


 捕虜となった魔戦士の大半が奴隷化を受け入れて、オルタネイトにある開拓村へ送られた。

 受け入れなかった者は裁判を受けさせるために兵士が来て連れて行った。

 ラチェッタはやや不満そうだ。


「奴隷化を受け入れなかった彼らはどうなります?」

「分からないけど、死刑じゃないかな」

「そうですか」


「だいぶ汚れたな。風呂に入ってから帰るか」


 マイラと入ったのを思い出す。

 あれからだいぶ経ったな。


 男湯と女湯を作って、女湯には覗けないように壁を作ったが、不評だった。


「ふぃー」


 露天風呂は気持ちいい。


「僕は結局役に立たなかった」

「俺なんか。後ろでちょろちょろしてただけだ」

「ベークなりに頑張ったさ。コネクタも良くやったよ。異変を報せたのは大金星だ」


「トレンが回復を受け入れてくらたのは嬉しかったなぁ。命を預けてくれたって事だよね」

「いや違うと思うな。たぶん魔法を打ち破る技術があるんだろう。そんな気がする」


「なぁみんな、女風呂を覗きに行かないか」

「リッツ、殺されたいのか。俺はパスだ」

「魔王と言えども婚約者が怖いのか」

「なんと言おうが行かない」


「ラチェッタの裸は見たいけど、ばれたらラチェッタが口を聞いてくれなくなりそう」

「俺も妹に殺される。エミッタ姉様に告げ口されたら、もっと酷い事に」

「みんな臆病だな。ばれなきゃ良いんだよ。魔法を使って覗くんだ」


 馬鹿だな。

 流れを見るマイラが見逃すわけないだろう。


「どんな魔法だ?」

「光は曲がるんだ。それを使えば離れた所からでも、塀の上からでもなんとかなる」


 ファイバースコープを魔法で再現するのか。

 リッツにしては凄い発想だ。

 エロに掛ける情熱ゆえか。


 お湯から上がり、被害が及ばないように遠くからリッツを見守る。


「【光屈折】! へっ! 真っ暗だ!」


 しばらくして、マイラがやってきた。

 リッツは足の脛にナイフの柄を打ち込まれて崩れ落ちた。

 女子が沢山出て来てリッツを殴る蹴る。

 やっぱりなそういう落ちだと思ったよ。


 でもファイバースコープの魔法は面白い。

 暗部に受けるだろうな。

 今度ランシェに会いに行くときにお土産として持っていこう。


 ズタボロになったリッツが見えた。

 回復の魔道具を使ったようだ。

 リッツは何にもない顔で起き上がって、男湯に消えて行った。

 タフな奴だ。

 極限で生き残るのはああいう奴だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る