第408話 降伏勧告と、自爆と、新しい世界

「トプス、どういうつもりだ。申し開きがあるなら聞くぞ」

「つい、美味しい野菜に惹かれてぇ」

「食い物に釣られたのか。そんなことだと思ったよ。俺の母国と連絡はついた。俺も同じ物を提供できると約束しよう」

「じゃ、ダンジョンはやめるぅ」


 これにて一件落着だな。

 4体の魔王を引き連れて、アスロン侯爵軍と対峙した。

 相手の戦意は姿を隠して偵察するまでもない。


「ふふふっ、馬鹿な奴だ。のこのこ出てくるとはな」


 降伏勧告に俺が出向いたら、アスロン侯爵が出てきた。


「切り札の古代魔道具があるんだってな。使ってみろよ」

「言われるまでもない。起動せよ、ヘブンズゲート」


 空間が裂けて違う景色が見えた。

 空間転移の一種かな。


「それがどうした」

「伝説では無敵の天使が現れるのだ。降伏するならいまのうちだじょ、じょ、じょ、ありゅ、ろれちゅが」


 アスロン侯爵の皮膚が枯れ木のようになっていき、最後には干からびた。

 そして塵になって風に吹かれて散っていく。


 おいおい、自滅するのは勝手だが、裂けたこの空間はどうするんだよ。

 無敵の天使が現れるのかな。


 すこし待ってみたが、何も出て来なかった。

 アスロン侯爵軍は混乱している。

 大将が自爆して効果がなかったなんて分かったら混乱するよな。


「ここは私にお任せを」

「レクティか。任せた」


 レクティが獣人の群れを率いて、侯爵軍との話し合いに行った。

 俺はこの空間の裂け目、ゲートを監視している。


 やがて夜になった。

 レクティは侯爵軍に無条件降伏を飲ませることに成功。

 戦争を回避できてよかった。


 ゲートの監視は交代ですることにして、俺はやり終えた満足感と共に眠りに就いた。

 朝になってもあのゲートはそのまま。


 このゲートの向こうに踏み入らないといけないようだ。


「よし、ゲートをくぐろう」


 もしかしたら向こうの世界は前世の世界なのではという希望的観測が生まれた。

 ゲートをくぐると向こうは草原だった。


 魔法を試す。


【import magic

mp=ignition() # 点火

mclose(mp) # 魔法を終わる】


 こんな魔法だ。

 そしたらエラーを吐かれた。


Traceback (most recent call last):

File "<stdin>", line 1, in <module>

ModuleNotFoundError: No module named 'magic'


 ええと、世界システムが作動して足らないところを保管してくれるはずだ。

 世界システムがなくなった。

 いいや、エラーを吐かれたということはプログラム自体は走る。


 前世の世界でもない。

 第三の世界だ。


「魔法が使えない」

「やってみる。【点火】。使えたよ」


 マイラの指先に炎が灯る。

 ほんとだ使えてる。


「【点火】。俺にも使える」


 プログラムが駄目なんだ。

 でもエラーは吐かれた。

 プログラム自体は有効だ。


 待てよ、Pythonパイソンが何で使えるんだ。

 ここは別世界だということは分かる。

 神様が、Pythonパイソンをインストールしておいた。

 でも世界システムはなし。


 いや点火の魔法は使えた。

 じゃあこんなのはどうだ。


【print("【点火】")】


 【点火】という文字が表示され、炎が灯った。

 やった、プログラムから魔法が使えた。

 俺の中にはある仮説が出来た。


 転生した世界と、この世界はゲームの世界なんだ。

 前世の世界だけが本物。


 だがそれは言うまい。

 どんな世界であろうとも精一杯生きるだけだ。

 ただ、神はおそらく世界を破壊しても別に困ったりはしないだろうとは思う。


「この世界の冒険はこれから、少しずつやろう」

「うん、タイトと一緒ならどこへでも行く」

「平和そうな世界ですし、攻めてくる兆候もありません。物見遊山気分もいいかも知れません」

「新しい世界、わくわくする」

「異世界の星配置はどうなんでしょう」


 言うなれば今の状態は第一部が終わって、第二部になったということかな。

 どんな世界でも、プログラム的魔法さえ使えればきっと楽勝だ。

 それと4人の婚約者がいれば怖くない。

 俺達の冒険はこれからだ。


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