第326話 ロータリとの同盟と、試合と、必滅矢

「イーサがロータリとの同盟を模索しているみたいだよ」


 リッツがどこからか情報を聞き込んできた。

 そう簡単にいくかな。

 ディッブ人は商人などに何の価値も見出さない。


 聞いたところディッブの政治体制は、上級戦士が取り仕切っているいるらしい。

 揉めた時は試合して方をつける。

 だから、その時の運が作用するみたいだ。

 実力が伯仲するとそうなる。


 稀に中級戦士が勝って意見を通すこともある。

 決定権が武力とは、なんという脳筋ぐあいだ。


 でもイーサは魔闘術破りの魔道具を持っている。

 ひょっとしたら勝つかもな。


 俺はディッブ人の議会に出席した。

 議会は開かれており、平民だろうが、無職だろうが出席できるし意見を言える。

 他国人の俺にさえその権利がある。

 ただし意見を通すには試合に勝たないといけない。

 俺達は議会へ急いだ。


「トナキキイトカ・チミ・チリリニチミソイ・コイカテイイミ・シニセ・チミシ・スラカチスンル・チミシ・チカカチソノ・カクイ・トリニシイス」


 イーサが意見を述べている。


「リッツ何だって?」

「ディッブとロータリの同盟を提案する、そしてスライダーに攻め込むのだと言っている」


 

「シイハイチカニミキ・カクイ・イミイモン・ニミ・ミナモコイスト・ニト・ミラカ・チ・セスラナシ・コチカカリイ・ラハ・カクイ・シニセル」


 上級戦士らしき人が反対意見を述べた。


「数を揃えて敵を打ち破るなど、ディッブ人の誇りある戦いとは言えないだって」


 ディッブ人の考えならそうなるよな。

 数多くの戦士が賛同している。


「テニリリ・ンラナ・シイソニシイ・ニミ・チ・クラリン・シナイリめ」


 イーサが何やら尋ねている。


「聖なる決闘で方をつけるか尋ねている」


 ここが勝負所だな。


「その勝負俺が受ける」

「スライダー人は黙っていろ!」


 イーサが激昂した。


「ディッブの会議は誰にでも発言権がある。違うか?」

「くそっ、良いだろ。勝負だ」


 俺とイーサで勝負となった。

 イーサと俺は闘技場で構えをとった。


「前は引き分けだったが、今回は障壁の魔道具もある。同じ手は通用しない」


 イーサが自信ありげだ。


「弱い奴ほどよく吠えるものだ」

「くっ、殺してやる」

「審判、始めてくれ」


「ハニキクカ」


 開始の合図が掛かる。


「【必滅矢】」


 俺は短縮詠唱で必滅矢の誘導弾を発動した。

 必滅矢の正体は魔力の振動による攻撃だ。

 魔力があるところならどこへでも伝わってしまう。

 魔力の空白を作り出すしか防御の手立てはない。


 イーサの体がぶれて、消えて、そして転がった。


「何をした。なぜ障壁が効かない」

「攻撃には色々とあるんだよ【必滅矢】」

「ぐはぁ、待ってくれ、降参だ」


 馬鹿な奴だ。

 手の内をさらすからそうなる。


「チリリニチミソイ・テニカク・スラカチスン・スイマイソカイシ」


 そう宣言されて、銅鑼が鳴らされた。

 ロータリとの同盟は却下されたようだ。


 宴会が始まった。

 ディッブ人は宴会好きのようだ。

 おそらく狩猟民族だから、獲物が獲れた時は盛大に飲み食いするからだな。

 その風習がこういう感じになっているのだろう。


「今回は負けたが、あとで絶対に復讐してやる」


 イーサが来て、そう言い残して去った。


「貴殿のその強さが羨ましい」


 トレンはまだ強さへの渇望があるらしい。


「魔闘術を使った陶芸の普及は進んでいるか?」

「ああ、進んでいる。民はみんな喜んでいるな。モンスターの人形を作ったり、闘神像を作ったりもしている」

「進んでいるようで何よりだ」

「魔闘術による陶芸は、武術訓練になるようだ。魔闘の操作が巧みになって、奥義を覚えた奴もいる」


 俺が考えたことと違うが、普及が進むならいいことだ。


「なら、トレンも壺や色々な形にチャレンジしてみるといい」

「既にやっている。集中力も増した。陶芸は奥義と言っても差し支えないだろう」

「奥が深い技術だから、釉薬ゆうやくとかも試したら良いかもな」

「そんな技術があるのか。学園に帰ったら文献を……」


 言葉に詰まるトレン。


「どうした?」

「もう学園には帰れないのだったな。未練だな」

「陶芸で少し変わっただろう。それを積み重ねれば、問題がきっと解決するさ」

「そうだろうか」


 トレンの問題を解決してやりたいが、前にも考えたが、本人が変わらないことには始まらない。

 何かきっかけがあってトレンが変わるといいのだが。

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