第164話 リラの仮面と、乱入者と、男女の機微

 学園は5月、行事としてダンスパーティがある。

 去年はマイラがさらわれて散々だった。

 その時にケリもついたし、良い思い出も作れたけど。


 リクエストに応えて俺とマイラは年齢操作して18歳同士でパーティに出た。

 マイラとダンスをひとしきり楽しんだ後、飲み物を持ってテラスで休憩。


「今年は何もないと良いんだけど」


「抜け駆け禁止ですわ」


 レクティがテラスに姿を現した。


「ごめん。レクティとも踊るから勘弁して」

「なら、許します。リラですが、少しきな臭いですね。幼少期と特徴が一致しない部分があるようです。髪色は一緒ですが、目の色が違います。リラの幼い頃は病気がちで走ったりはとても出来ません。治ったとしても疑問が少し残ります」

「やっぱりな。今のリラの本名が知りたい」

「それは難しそうです。現在、手掛かりがありません」


 目の色は変えられないようだ。

 そういえばノッチもニオブと同じ目の色だった。


 ああ、そうか。

 リラの仮面が分かった。

 そうか、そうだったのか。


 眼鏡を取り、髪型をストレートに変えて、髪色を金髪に変えれば、特徴は彼女とぴったりだ。

 資料を何度も読んだのにな。

 幽霊が出たと噂になったな。

 幽霊でなく本人だったか。

 説得は慎重にいこう。

 置かれた状況を考えるに誰も信じていないはずだ。


「リラの事はもう良い。白い仮面の集団を探ってくれ」

「かしこまりました。ではわたくしと踊って頂けますか」

「喜んで」


「レクティの次は私よ」

「分かった。次はマイラと踊る」



 レクティと手を取って、踊りの場に入る。

 踊っている最中、リラを探した。

 リラはアキシャルと踊っていた。


 意外な組み合わせだな。

 入口の方で悲鳴が上がった。

 くそう、やっぱりそういう落ちかよ。

 入口の方を見ると、白い仮面の集団が火球を放つところだった。


 俺は持っていたバリアの魔道具6つを同時に起動した。

 入口のところで起きる爆発。

 バリアが間に合ったみたいだ。


 死傷者はいない。

 白い仮面の男達は『リラと踊っている男を捕まえろ』と言っていた。

 アキシャルがトラブルに巻き込まれたのか。

 いいや、たぶんリラ絡みだな。


 俺はバリアを解除して電撃を放った。

 ダイナが現れ止めを刺していく。


 リラはというと冷たい目で仮面の男達を見ていた。

 やっぱりな。

 リラは誰も信じていない。


 俺はアキシャルに近寄った。


「狙われているぞ。身を隠した方が良い」

「そうかい。困ったね。荒事は得意じゃないんだ」

「リラと何か話をしたか?」

「したよ。花の話とかしたね」


 アキシャルならそう言うと思った。

 何か重要な事を聞いても、聞き流しそうだ。


 何でアキシャルが狙われたのか?

 白い仮面の奴らを捕まえても口は割らないだろうな。


 ダンスパーティは中止になった。

 俺達の他は誰もいないホールで、レクティとマイラと交互に踊る。

 なんでこんな事になったかといえば、後始末に現れたランシェに、少し待てと言われたからだ。


 マイラとレクティが踊ろうと言うので暇つぶしに踊っている。

 少し疲れたなと思ったら、ランシェがやってきた。


「聞き取りは終わったのである。聞きたいのはアキシャルがなぜ狙われたかであるな」

「うーん、リラが狼仮面だというのは判明したけど、アキシャルとの接点は分からない」

「ふむ、それで合点がいったのである。ここのところ狼仮面は現れていない。変化が起こったという事であるな。変化を起こすのは男女の関係が多い。であるからにして、リラの想い人がアキシャルだと思われたのだな」

「まさか、アキシャルがねぇ。部活でもそんな素振りは見えなかった」


「男女の機微は複雑である」

「そうかもね」


「とにかくレジスタは狼仮面がいないので攻勢に出ておる」


 どこか歯車が噛み合ってないような感じがする。

 狼仮面がサボタージュしているのは確かだとすると。

 何かそう思わせる出来事があったはずだ。

 なんだろう。

 メタルシュリンプの件か。

 病気の薬で嘘をつかれたからなのか。


 いや、それだけじゃないはずだ。

 何だろう。

 いや待てよ。

 二つ以上の要因があるかも。

 浄化の魔道具で元気になったと言っていたよな。

 あれにそんな効果があるとは考えられないが、本当だとしたら。

 魔導師の治療が要らなくなった?

 あり得るな。


 デートの時に守る対象にリラが含まれていると俺は言った。

 敵対しない限り守ると。

 あの言葉を守っているのか。

 じゃあ、惚れたのはアキシャルでなくて俺か。

 まさかな。


 恋愛感情はないよな。

 仲間意識とかそういうのだよな。

 きっとそうだ。

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