第39話 婚約者と、選挙準備と、複写魔法

 寮への帰り道、ある場面に出くわした。


「誰かぁ、物取りです。捕まえてぇ」


 メイドが声を張り上げている。

 元締めは堅気になって奪還屋を辞めてしまったのか。

 治安に貢献してたんだから続ければいいものを。


「【軽誘導電撃】」


 俺はスペルブックを開くと短縮詠唱で魔法を放った。

 電撃は物取りを追いかけていき、背中に当たって痺れさせた。

 マイラが駆けて行き、物取りから奪われた物を取り返して戻ってきた。


「ありがとうございました」


 お礼を言ってきたのはメイドではなく、お嬢様だった。

 年の頃は12歳といった所か。

 垂れ目でどことなく人が好さそうな雰囲気がある。

 香水の匂いが僅かに漂ってきた。


 まだ子供だな。

 香水をつけているのは背伸びしたいからか。

 俺達に比べると年上だが、前世を入れるとお子様だ。


「気をつけた方がいいよ。前は取り締まっている奴らが居たんだけど、今はいなくて治安が悪いから」

「そうですか。気を付けます。ご丁寧にありがとうございます。あの私はアルミナ・オルタネイトといいます。あなた様のお名前は?」

「タイト・バラクタだよ」

「これはとんだ失礼を。ご叱りはいかようにも」


「お忍びだから、かしこまらなくていいよ。それに王族と言っても末席だから。今は魔法学園の学生だし。魔法学園では身分差は関係ない事になっている」

「そうですか。魔法学園に通っているのですか。タイト殿下はニオブ・バリアブルをご存じでしょうか」


「知っているけどなんで」

「私の婚約者なのです。明日から私も魔法学園に通う事になっています」

「そうなんだ。頑張って」


 俺は言葉を濁した。

 気まずいな。

 仇の身内に会うとは、人が好さそうだし、憎めそうにもない。


「何かニオブが」


 言葉の雰囲気から不穏な気配を感じ取ったのだろう。

 アルミナの言葉が不安げに曇った。


「俺とニオブは兄弟なんだ。後は言わなくても分かるだろう。よくある貴族のごたごたさ」

「そうでしたか。ならば和解できるように尽力したいと思います」


 和解か、考えた事がなかった。

 命を狙うような相手に和解は無理だな。

 だがアルミナがしたいなら好きにさせておくさ。

 俺の骨折りではないからな。


「できればいいな。じゃあ俺達は行くよ」

「次は学園でお会い出来れば嬉しいです」


 俺はそそくさとそこから離れた。

 ニオブへの怒りをアルミナにぶつけてしまいそうだったからだ。


 学園に帰ると、寮でカソードと行き会った。


「よう」


 カソードが陽気に声を掛けてくる。


「おう」


 俺は応じた。


「兄貴の手伝いで、てんてこ舞いさ。手伝ってくれないか」

「いいよ。何をやるんだ」

「チラシを書くんだ」


 ええと、アノードに清き一票をと書いてある。

 選挙か?

 生徒会の選挙の時期なんだな。


 魔法でチラシぐらい作れないか。

 やってみた。


char paper[1000]; /*紙を指定*/

extern MAGIC *paper_init(char *paper_material);

extern void paper_write(MAGIC *mp,char *spell);

extern int mclose(MAGIC *mp);

void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=paper_init(paper); /*紙を魔法の対象に*/

 paper_write(mp,"アノードに清き一票を"); /*紙に印字*/

 mclose(mp); /*魔法終わり処理*/

}


 俺の魔法は効率が良いため何万枚でも印刷できる。

 瞬く間にチラシが出来上がった。


 何だか寂しいな。

 文字だけだからか。

 それに機械みたいな感じで印刷すると温かみがない。


 俺はチラシを一枚手に取ると、花とハートマークを書き入れ始めた。

 これの方がずっといい。


「書き写すの手間だな。魔法で方をつけるか」


char paper1[1000]; /*複写元の紙を指定*/

char paper2[1000]; /*紙を指定*/

extern MAGIC *paper_init(char *paper_material);

extern void paper_draw(MAGIC *mp,char *paper_material);

extern int mclose(MAGIC *mp);

void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=paper_init(paper2); /*紙を魔法の対象に*/

 paper_draw(mp,paper1); /*複写元の絵を紙に描く*/

 mclose(mp); /*魔法終わり処理*/

}


 うん、上手く出来た。


「うわっ凄い。俺だと、魔法で全部はできないや」

「それが大きな強みだからな」

「タイトって魔力量いくつ?」


「113+100万」

「凄いね。俺は1万ちょっとしか無いから」

「実は113しかないんだ。100万は魔道具でブーストしてる」

「そう。でも凄いよ。そういう在りえない事をするなんてさ」

「魔法の可能性は無限大だよ」

「俺も頑張らないと」


 魔力を増やす秘術を教えろと言わないのが、カソードの美点だな。

 嫉妬したふうが無いのもいい。

 そういう所に好感が持てる。

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