第40話 清き一票と、自由と、姿隠し魔法

「アノードに清き一票を!」


 生徒会の選挙が始まっている。


「バイアスに一票を!」

「ツェナーをよろしく!」


 他の候補も盛んに声を出していた。


「これからはニオブ様の時代だ!」


 ニオブの奴、生徒会長に立候補したのか。

 よく見ると他の候補は頑張って声を上げているのに対して、ニオブだけは部下にやらしている。

 自分から率先してやらない候補なんて誰も見向きもしないだろう。

 そう思っていたら、ニオブと握手していく奴が多数いる。


 どういう事だ。

 俺はニオブに近づいた。


「ひっ」


 俺に気づいたニオブが小さく悲鳴を上げる。


「ニオブ様、弟君ですよ。仲良くなるチャンスです」


 アルミナが脇にいてニオブに向かってそう言った。

 ニオブの怯えが止まり、堂々と胸を張って俺に向かい合った。


「何だ、俺を応援したくなったのか? 今なら仲間に入れてやるぞ」

「何でこんなに盛況なのか気になってな」


「いいだろう。特別に教えてやる。この魔法学園の九割は貴族の係累だ。俺は身分差による学園の秩序を提唱しただけだ」

「いいのか。それからいくと王族の俺が学園で一番偉いという事になるぞ」


「ふん、俺達の派閥は貴族派だ。王族の権利なんぞ認めん」

「そういうのは王国の権力を掌握してから言うんだな」


「そんな事を言っていられるのも今のうちだ。まあ見てろ」

「話が平行線のようだから、俺は行くよ」


「ニオブ様、王族をないがしろにする態度はよくありませんわ。特に弟君に対してはね。仲良く平和にですわ」

「アルミナが言うなら。おい、さっき言った事は忘れろ。王族を頂点とする秩序を学園にもたらすのだ」

「分かったよ。じゃな」


 ニオブを支持する生徒が何を考えているかが分かった。

 要するに貴族の肩書で偉ぶりたいとそういう訳だな。


 こういう欲求に対抗するのは容易ではないぞ。

 俺はアノード陣営にお邪魔した。


「我々は自由の為に戦うのです」


 アノードが演説している。

 まあ、対抗策としては自由を訴えるのは間違ってはいない。

 いないが、決定打に欠けるな。


 俺が口出しするほど不味い手を打っている訳でもない。

 ただこのままだとずるずると行きそうな気配だ。

 改善するような手を打つにしても、俺は選挙の専門家でもないし、そんな手腕は持ってない。


 俺に出来るのは魔法という名のプログラムだけだ。

 さてとスパイ活動に最適な魔法を作るぞ。

 たぶんニオブは汚い事をしているはずだ。

 それを突き止めよう。

#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>


void main(void)

{

 system("attrib +H カニキクカ.body"); /*体の属性を隠し属性に*/

}


 ふん、俺って多才だな。

 これで周りから見えないはずだ。

 マイラを探して声を掛ける事にする。


「マイラ」

「誰? この声はタイトね。もう、いたずらが好きなんだから」


 次の魔法を実行した。

#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>


void main(void)

{

 system("attrib -H カニキクカ.body"); /*体の隠し属性を解除*/

}


「やっぱりタイトだった」

「見えなくなってただろう」

「うん」

「よし、二人でスパイごっこだ。ニオブの悪事を突き止めるぞ」


 二人して透明になり、ニオブの側近の後を付ける。

 側近は校舎裏に入っていった。

 臭いな、悪事の臭いがプンプンする。

 校舎裏には側近ともう一人生徒が居た。


「こんな所に呼び出して何の用?」

「ニオブ様の考えを支持しろ」

「嫌だ」

「ただでとは言わない。小遣い稼ぎをしてはどうかな」

「御免だ」

「そんな事を言ってもいいのかな。実家に迷惑がかかるぞ」


「そこまでだ」

「そこまでよ」

「誰だ! 姿を現せ」


「こらしめてやりなさい」

「おうふ」


 マイラに股間を蹴飛ばされ側近は白目をむいた。


「誰だか知らないけど、ありがとう」

「困った事があればアノードさんを頼ると良い。きっと相談に乗ってくれるはずだ」


 俺達は同じように側近の後をつけて多数の生徒を助けた。

 アノードは彼らを証人としてニオブを追求したが。

 ニオブは彼らが勝手にやったと言い張ってしらばっくれた。

 嘘判別魔法でニオブは、ほのめかしはしたが、明確な指示をしなかったと判明した。


 結局、ニオブはお咎めなしになった。

 だが、ニオブの評判は落ち、アノードとの勝負は分からなくなったようだ。

 勝っているのだから余計な事をしなければいいのに。

 まあそこがニオブらしいといえばらしい。


 選挙はニオブとアノードの一騎打ちの様相になった。

 アノードが勝つといいが。



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