第38話 居なくなったゴブリンと、クラッド商会と、飼育場

 休みの日、久しぶりに冒険者ギルドに寄った。


「久しぶり」

「タイト様におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます」


「やだなぁ、いつもの毒舌を吐かないとギルドに来た気がしないよ。許す、いつも通りにして」

「あんた達、またやったわね」

「何の事? マイラ、分かる?」

「分からない」


「ゴブリンよ、ゴブリン。あの害獣がいなくなったのよ」

「それと俺達に何の関係が」

「だって電撃千個でしょう。それを使えば一日で全滅させても不思議じゃないわ」


「俺の事を買いかぶってくれるのは嬉しいけど、隠れているゴブリンを探して、殲滅するほどではないから」

「知ってるわ。スリグループが中心となって討伐しているみたい。マイラ、吐きなさいよ」

「知らない。スリグループとは切れたから」


 俺はなんでゴブリンが居なくなったのか知っている。

 魔道具の材料になったのだ。

 数えてないが、マイラと俺で数万は作ったはず。

 元締めも同じぐらい作っているだろうから、周辺で絶滅するのも無理はない。


 王都周辺のゴブリンが居なくなったらどうする。

 地方から輸入するだけか。

 俺の魔道具はホーンラビットの魔石からでも作れる。

 効率が段違いだからな。


 ゴブリンなど、どうなろうが関係ない。

 だけど、少し気になったので、元締めの所に顔を出す事にした。


 元締めのやっているクラッド商会は表通りの大店が建ち並ぶ一角にあった。


「元締め居る?」

「なんだこの子供は? 冷やかしなら帰った帰った」

「あれっ、ここはクラッド商会だよね」

「そうだが」

「ええと、そうだ会頭と会いたい」

「お前になんか会頭は会わない。しつこいと警備員を呼ぶぞ」


 騒ぎを聞きつけて、堅気でない男が現れた。


「げぇ、鎌鼬のマイラ」

「この子供達は顔見知りですか?」


 店員の顔が不思議気になった。


「馬鹿、言葉に気を付けろ。この二人を子供だと侮ったら痛い目をみるぞ。特にマイラは危険だ」

「そうなんですか」

「二人に謝っておけ」

「顔見知りとは知らずにすみません」


「いいよ。最近になって雇われた人?」

「はい、先週からです」


「ところで元締めは?」

「最上階の一番奥だ」


 俺達は会頭室と書かれた部屋の扉をノックした。


「入んな」


 部屋に入ると元締めだけで、用心棒はいない。

 元締めは座り心地の良さそうな椅子に深々と座っていた。

 武装もしていないようだ。

 それにふくよかになった気がする。


「お邪魔するよ」

「ずいぶん、ぬるくなったね。今なら私でも殺せそうだ」


「よせ、マイラ、昔とは違う。俺はクラッド商会の会頭だ。堅気なんだよ」

「ゴブリンが居なくなりそうなんだけど、魔石は大丈夫?」

「それか。今は冒険者ギルドから買っている。在庫も沢山あるらしいし、地方から送ってもらう手筈になっている」


「それなら一安心だね」

「頭が痛い問題は別にある。魔道具の主要産地を知っているか?」

「あれっ、どこだったっけ。確か試験勉強で丸暗記したはずなんだけどな」

「公爵領だ」

「どこの公爵?」

「バリアブルだよ」


 ああ、実家か。

 そうだ、勉強の時にわざと覚えなかったんだ。

 意図的に記憶から消そうとしてたのだと思う。


「それが何か」

「摩擦が起きそうなんだよ。うちが作っているのが火点けと、コンロとライトと、生水だけだから、まだ良いが。バリアブルの売り上げの半分は減っただろう」

「圧力が凄そうだな」

「まあな」


「じゃあ、王族御用達の看板を上げていいよ」

「お前、いくらなんでもそれは」

「大丈夫。言う通りにしなよ」

「どうやって王族に鼻薬を嗅がせたのか分からないが、話はついているって事だな」

「ああ、ついている」


「近くの村で飼育場を運営しているんだが、そこの口添えも頼めるか」

「飼育場なら許可なんか要らないだろう」

「それが訳ありでな。地図を書くから視察してみてくれ」


 馬車を借りて飼育場のある村に向かう。

 許可が必要だなんて何を飼育しているのやら。


 村につくと糞尿の匂いが漂ってきた。

 豚を飼育しているみたいだ。


 案内されて厩舎に入るとなんとゴブリンが飼育されていた。


「どうでぇ。俺達が育てたゴブリンは。色艶といい気性といい見事なもんでしょう」


 確かにゴブリンは俺達を見ても襲い掛かろうとしない。

 どういう事なのか聞いてみる事にした。


「大人しいね」

「聞いて下せぇ、逆らう奴を殺しまくったら、大人しいのしか生まれてこなくなったんでさぁ」


 品種改良したのか。

 それなら。


 俺は品種改良の論文を書いた。

 ゴブリンの農場はその実験の為だと意見書も添えてだ。

 しかし、ゴブリンを飼育して、割が合うのかね。

 何でも食うらしいから、飼料は安いのだろうけど。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る