第43話 いちゃもんと、初めての殺しと、添い寝

 元締めから手紙が来た。

 実家がクラッド商会にいちゃもんをつけてきたらしい。

 全く碌な事しないな。


 とりあえず、事情を聴くために元締めの所に行った。


「おう、全くお貴族様ってのは横柄だ。利権や技術を全て寄越せと言ってきたぜ」

「やっちゃいなよ。骨の一本二本折れば大人しくなるよ」

「マイラ、何度言ったら分かる。お前みたいな考えは長生き出来ない」


「そんな事だと思ったよ。オルタネイトは何だって?」

「あそこはのらりくらりかわしている。俺らはそんな器用な真似はできねぇ」

「とりあえず王族御用達だから、王族に仲裁してもらうと言っておいてよ」

「がってんだ」


 話し合いも糞もないんだけどな。


「タイト、こういう理不尽な話は舐められたら終わりよ」

「分かってる。あいつらに隙を見せたらきっと骨までしゃぶられる」

「で、どうするの?」


「王族に無礼を働いたと言って使者をコテンパンさ」

「スカッとした解決なら良いけど」


 話し合いの場が設けられる事になった。

 俺とマイラと元締めが話し合いの場に出た。


 話し合いはレストランで行われるようだ。

 俺達はわざと時間ギリギリで会場に入った。

 三人の男達が待ち構えている。

 どいつもこいつも脂ぎって同じような風体をしやがって。


「ふっ、待たせたかと思えば子供を連れてくるとは。犯罪者上がりは何を考えているやら」

「子供を泣かせて同情を引くつもりではないですかな」

「そうに違いない。時間も勿体ない始めるか」


「書類は作っておいた。後はサインするだけだ。さぁ早くしたまえ」

「見なくても分かる。お断りだ」


 俺は書類を破り捨てた。


「何をする。この無礼者が」

「豚がいっちょ前に言葉を喋る。あー、臭くて堪らない」

「ここの、言わせておけば【炎を以って焼き尽くしたまえ】」


 俺は魔道具でバリアを張った。

 飛んできた火球はバリアに防がれた。


「むっ、何で燃えない」

「このお方を誰だと心得る。タイト王子なるぞ」


 マイラが芝居掛かった口調で話す。


「マイラ、やってくれ」

「おう」


 マイラが椅子からジャンプすると、座っていた男の顔面に膝蹴りをかました。

 そして後の二人を後ろから引き倒す。

 電撃の魔道具でマイラが男達を痺れさせた。


 簡単に方がついたな。

 後は一人起こして、王族に無礼を働いたと手紙を持たせるだけだ。


 手紙を持たせて一人返し、しばらくしてから血相を変えた男が現れた。

 男はいきなり激昂した。


「お前はタイト! この汚い血の子がいい気になるなよ!」

「汚い血だって、もういっぺん言ってみろ」


 俺は無詠唱で1メートルを超える電撃を放っていた。

 黒焦げになる男。

 どうしたんだ、俺。

 きっとこの怒りはタイトのものだろう。

 そうに違いない。


 男をどこかで見た顔だと思ったら、バリアブル邸の使用人の一人じゃないか。

 こいつはネチネチとタイトを虐めてた一人だ。


 遂に一線を越えてしまった。

 だが、後悔はない。


「はい、次の人。手紙を持って行って。今度はまともな人を寄越してね」


 しばらくして、老人がやってきた。

 この人はタイトに嫌がらせをした事がない人だな。


「タイト様、立派になられて。お母様も草葉の陰で喜んでいる事でしょう」

「そういうのはいいから。とりあえず慰謝料の金貨1万枚ね。要求が受け入れられない場合はタンタルの首をもらう。勝てると思わない事だよ。なにせ俺は魔王級だから。キングウルフ討伐がその証拠さ」


「分かりました。帰って旦那様に伝えます」


 結局、慰謝料の金貨1万枚は届かなかった。

 仕方ないので残った男を解放。


「タイト、手が震えているよ。おさまるまで握っていてあげる」


 マイラの手の暖かさが心に染みる。

 俺はどうしたんだ。

 こんなに心が弱かったのか。


 バリアブル邸にマイラと手を繋いで行った。

 緊張感のない恰好だが、仕方ない。

 手の震えが止まらないんだから。

 門の所にはあの老人がたたずんでいた。


「旦那様は領地に逃げ帰りました」

「タンタルは逃げたのか。臆病者だな。なんかやる気が失せた。これに懲りたら、もうちょっかいは掛けるなと、タンタルに伝えておけ」


 寮に帰って夜になったが、一向に眠りは訪れない。

 相変わらず手は震えている。


「眠れないの?」


 マイラが俺のベッドに滑り込んで来た。


「うん、眠れない」

「じゃあ添い寝してあげる」


 ロリコンにとってはご褒美なんだろう。

 ロリコンちゃうわ。

 俺は茹蛸ゆでだこの様にきっとなっているに違いない。


 そんな事を考えたら、色々な事が思考から消えた。

 電源が切れたようにぷつりと意識が切れる。

 気がついたら朝だった。

 マイラは俺にしっかりと抱き着いている。

 手の震えは止まってた。


 ロリコンちゃうわ。

 でもマイラありがとう。

 愛してるとは言えないが、きっと好きなんだろう。

 俺の中にあるタイトの部分がな。

 そういう事にしておこう。


「むっ、起きたの」

「マイラのおかげで、ぐっすり眠れたよ」

「そう、良かった。来週になると建国祭ね。楽しみ」

「そうだな、一緒に楽しもう」


 何だか時間が凄く早く過ぎ去って行くような気がする。

 楽しいからかな。

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