第5話 王都と、冒険者登録と、ゴブリン討伐依頼

 王都の門に着いた。

 俺って何にも出来ない。

 道中、食材を探したのもマイラだし、料理したのもマイラだ。

 おまけに見張りもマイラがやってくれた。

 寝てても何かが近づくと起きるそうな。

 俺がトイレに起きた時もマイラが起きたから本当の事なのだろう。

 マイえもんと呼びたいぐらいだ。

 俺はハリ太だな。

 自虐しても仕方ないが、それが今の俺の実力だ。


「入市税、一人銅貨5枚だ」

「はい、銅貨10枚」


 マイラは金なんか持ってたのか。

 ああ、人さらい達からスったのだな。

 マイラに案内されてスラムに入る。


「マイラじゃないか。元締めがカンカンだぞ。7日もどこに行っていた」


 チンピラ風の男がマイラに話し掛けて来た。


「人さらいに捕まってた」

「そりゃ、同情は出来ないな。捕まる奴が間抜けだ。7日分の上納金を忘れるなよ」

「ええ」


 マイラの顔は厳しい。

 何とかしてやりたいところだ。

 街まで帰ってこれたのはマイラがいたおかげだ。


「上納金はなんとかなりそうか?」

「隠してある金をかき集めても、少し足りないわ」

「仕方ない、俺が一肌脱ぐよ」


 文字通り服を脱いだ。

 曲りなりにも貴族が着ていた服だ。

 それなりの値段で売れた。

 どうやら今回の上納金はなんとかなるらしい。

 マイラは金が手に入るとスラムのあばら家に俺を置いて出かけて行った。


 しばらくして帰って来たマイラは染みと継ぎ接ぎだらけの服を持っていた。


「元締めは何と言っている?」

「まだ抜ける事は話してない。交渉が決裂する事を考えて武器を用意しておかないと」

「まさかスリをやるつもりじゃないだろう」

「いいえ、人さらいから守ってくれないグループなんて、こっちから縁切りよ」


 マイラが捕まった時の状態がどんな物か分からないが、スリグループは捕まった事を知ってたんだな。

 だが、取り返さなかった。

 たぶん抗争になるのを恐れたのだろう。

 こりゃ、スリグループだけでなく人さらい組織からの襲撃を予想しないと駄目か。


「冒険者登録しましょ」

「ああ、そうだな。とりあえず金策だ」


 俺とマイラは冒険者ギルドに出向いた。

 昼のギルドは閑散としていた。

 併設されている酒場で飲んでいる人もほとんどいない。


「何、見てるの。行くわよ」

「悪い悪い、来た事が無いんでな」


 カウンターに行くと受付嬢がマイラを親の敵でも見るような目で見た。


「冒険者登録したい」

「えっ、鎌鼬のマイラがなの。足を洗うのは結構だけど。もし、冒険者の懐を狙うのなら、覚悟しておく事ね」


 マイラは有名なんだな。

 賞金首や指名手配になっていない事を祈る。


「スリグループには愛想が尽きた」

「冒険者登録はしてあげるけど。初めからブラックリスト入りよ」

「構わない」


 犯罪者の更生が上手く行かないのはどこも同じなのだな。


「マイラは指名手配とかはされてないのか?」

「こいつは証拠を残さないのよ。マイラがやったと思われる事件は多数あるけどね。まだ特定には至ってないわ」


 マイラの代わりに受付嬢が答えた。

 指名手配はされてないのか。

 ちょっと安心。


「証拠は残さないって、どんな手口なんだ?」

「物陰から死角に回り込んで斬るのよ。誰にやられたのか見た者がいないの。捕まったスリがマイラの仕業だって吐いた事はあるけど、証言まで生きていたスリは居ないわ」


 おう、物騒だな。

 裏切り者は生かしておかないようだ。

 スリグループは要注意だな。


 それはさておき、ここに来た目的を思い出した。


「俺も登録してほしい」

「そっちの彼はマイラの弟子?」

「いいえ、大魔導師よ」


 マイラが胸を張って答えた。


「へぇー、それでスリを見限ったって訳ね」


「俺の登録は?」

「良いわよ、してあげる。でも、はったりだけでやれるほど、冒険者は甘くないから、頑張るのね」


 紙に登録情報をかき込む。

 マイラが字を書けなかったので俺が書いてあげた。

 やっと俺が役に立った気分だ。


「ゴブリンの依頼を剥がして」

「おう、ゴブリンの依頼か。意外と堅実だな」

「タイトは生き物を殺した事がないでしょ」

「そうだな。慣れる為にはゴブリンは最適かもな」


 依頼で城壁の外にある畑に行く事になった。

 ファイヤーボールがあるから、ゴブリンぐらい余裕だろう。

 マイラも子供の戦士としてみれば強い方だ。

 負ける要素はないな。

 それよりもスリグループと人さらい組織が気に掛かる。

 いっぺんに物事は解決はしない。

 一つずつやっていくしかない。


 まずは冒険者としてやっていく事だ。

 ここでつまずくようでは何にも出来ないだろう。

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