第27話 推進剤と、石英と、真空の通り道

 順位戦が近づいてきた。


「模擬戦しよう」


 セレンが部室にてウキウキした様子で誘ってきた。

 そんなに模擬戦がやりたいのかな。


「私が代わりにやる」


 マイラが生徒でもないのにやる気を出した。

 まあいいや。

 マイラに渡した魔道具のテストもしておきたいし。


「話は聞いたぞ我々も同行しよう」

「僕はまだ行くと言ってませんよ」


 アキシャルは言葉では否定していたが、いそいそと部室を閉める準備を行っている。

 どうやら、エミッタとアキシャルも来るらしい。


 順位戦について説明すると、予選は的当て競争だ。

 入学試験でもやっていたが動く的に当てる。

 入学試験と違うのは時間内にいくつ的に当てられるか競う。


 本選は殺傷力の低い魔法での撃ち合いになる。

 軽い怪我以外は、ありえないが。

 事故が起こる事はあるかもね。


 修練場に到着すると、修練場の壁に座席を取り付ける工事をやっていた。

 トレーニングをしている生徒もかなりいる。


「人が多いな」

「この時期は仕方ないわよ」


 エミッタとアキシャルは的当ての練習をするらしい。

 ちょっと覗いてみた。


「【魔力1で火球生成。ラベル1設定。目標に誘導。ラベル1から繰り返せ】」


 エミッタは俺の論文を読んだのだな。

 繰り返しを呪文に盛り込んでいる


 だが、駄目だ。

 何が駄目かと言えば、魔力1で火球生成は本番ではもっと大きいのを出すのだろう。

 ここは良い。

 問題は目標に誘導する所だ。

 スピードを速くしないと時間内に沢山の的に当てられない。


「会長は火球を動かすのにどうイメージしてる?」

「何となく動けだな。はっ、どうして火球は動くのだろう」

「たぶんだけど、風で駆動していると思う。空気を召喚して動かしているんだ」


「ほう、ならば改善の余地があると言うのかね」

「そうだよ火薬があるから、それを推進剤に使うんだよ」


「やってみよう【魔力1で火球生成。ラベル1設定。火薬を推進剤に目標に誘導。ラベル1から繰り返せ】」


 激しく燃焼しながら火球が的に迫る。

 さっきの何倍も速い。

 成功だな。


「素晴らしいね、君。火薬がこんな事に役立つとは」

「本当はもっと違う推進剤が欲しい所なんだけど。それとあらかじめ空気を圧縮しておいて推進剤代わりに使うのも良い」

「ふむ、なるほど。だが、火薬が良い。もっと燃焼を」


 化学知識がほとんどないから、これ以上のアドバイスはできないな。

 アキシャルの方を覗いてみた。


「【石の花を召喚。ラベル1設定。的に向かって花よ咲き誇れ。ラベル1から繰り返せ】」


 アキシャル先輩は石の花をツタの様に咲かす事で追尾するつもりらしい。

 召喚する速度は速いから、それなりの速度は出てる。


「後片付けどうするんだ」

「心配は要らないよ【送還】」


 召喚したなら元に戻せるのか、なるほどね。


「思ったのだけど、『石の花を召喚。ラベル1設定。的に向かって花を誘導。ラベル1から繰り返せ』これじゃ駄目なんですか」

「花は咲いてこそだよ。飛ぶ花は花じゃない」


 さいですか。


「では、石の種類を特定してみては。ここら辺りの地層だと砂岩かな」

「砂岩というと灰色の石かい。うーん、気乗りがしないね」

「じゃ石英はどうかな」


 石英はガラスの材料だ。

 見た目はほとんど曇りガラスと言っていい。


「石英でやってみるよ。【石英の花を召喚。ラベル1設定。的に向かって石英の花よ咲き誇れ。ラベル1から繰り返せ】」


 流石に石英はふんだんにある。

 花が出来るスピードがぐんと増した。

 石と指定していた時は特定の色と形と材質の石をイメージしたのだろう。

 そのイメージに近い石を探すのに手間が掛かるのだな。


「見てくれ、ガラスみたいな石の花を。ありがとう、花がより美しくなったよ」


 的当てより花の美しさの方が気になるんだ。

 アキシャルらしいと言えばらしいな。


 電撃の誘導弾はどうやっているのかと言えば、真空の通り道を作っている。

 俺はそうイメージしている。

 真空にするのに召喚の逆のイメージでやればより高性能になるだろう。


 俺が本気でやるなら的当てはレーザーだな。

 レーザーなら誘導の必要がない。


 だが、公衆の面前でやると、敵に余計な知恵をつけてしまう。

 敵に必殺技を教えるのは馬鹿のする事だ。

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