第28話 模擬戦と、寸劇と、科学知識チート

 マイラとセレンの模擬戦を見る事にした。

 マイラはちょこまかと動いてセレンが放つ火球の誘導弾をかわす。

 そして、間合いを測って誘導弾をバリアの魔道具でガード。

 魔道具で電撃の誘導弾を放つ。


 俺はバリアと誘導弾の魔道具を作って、マイラにあらかじめ渡してある。


「バリアはずるいわ。こっちの攻撃が当たらないじゃないの」

「ずるくない。ルールでは魔道具の使用は認められている」


「うっ、バチっときた」


 セレンに電撃が当たり、勝負は終わったようだ。


「お疲れ」

「あのバリアの魔道具を私にも貸して」

「いいよ貸してあげる」


「タイト、もう私を愛してないの」


 マイラはまた何か劇を見たな。


「そんな事はないさ、ハニー。勝負っていうのはフェアな方が燃える」

「競ってこそ恋なのね。そして燃え上がる」


 マイラとセレンが再び模擬戦を始めた。

 マイラが電撃を放つ。

 セレンがバリアを起動させたようだが方向が違うのでガード出来ない。

 全方位型のバリアじゃないからだ。

 セレンの灰色の髪が電気の影響で逆立った。


「うっ、酷い。髪の毛が乱れた」

「泥棒猫には逆立った毛がお似合いよ」


「地面に手を置くと良いよ。静電気が抜ける」


 セレンが地面に手を置く。

 そしてくしを出して髪の毛を整え始めた。


「諸君、やっているね」


 生徒会長のアノードと弟のカソードがやって来た。


「アノードさんも練習ですか」

「ああ、弟を鍛えようと思ってね」

「マイラ、セレン、場所を空けてあげて」


 アノードとカソードが向き合う。


「【水球発射】」

「【水の盾】」


 二人は短縮詠唱で戦っている。

 本来はこんな感じか。

 直線的に飛ぶ水球を水の盾でガードする。

 ガードするなら、石の盾とか堅そうだな。

 でも、出した後に邪魔になる。

 バリアは見えないから、いま一つ使い勝手が悪い。


 待てよ。

 風の刃って暗殺にはもってこいじゃないのか。

 見えないから防ぎにくい。


「風の刃って誰も使わないよな」

「そうね。威力がないから」


 セレンがそう答えた。

 えっ、キングウルフの解体に使ったけど普通に使えたぞ。


「軽くやってみて」

「いいわよ。【風の刃よ飛べ】」


 スーッと風が顔に当たった。

 えっ、これだけ。


「切れたりはしないの?」

「するわけないじゃない」


 俺ってどうやっていたっけ。

 真空の刃をイメージしてたな。

 空気の塊じゃ切れない訳だ。


「空気が無くなるとどうなると思う?」

「どうにもならないんじゃない」


 真空の概念がない。

 地球では真空が発見されたのは中世だったと思う。

 たしか関ケ原より後のような。


 地球の歴史では、鉄砲がある時期に、真空の概念はなかった。

 この世界は火薬もないようだし、科学技術的には中世より遅れているのか。

 道理で真理の試験で高得点を取れる訳だ。

 燃焼の概念すら危ういのか。


「燃焼ってどういう現象か説明できる?」

「火が点いて物が焦げるのよ。煙も出るわね」


 うわ、酸化現象が分かってない。

 プログラム知識だけでなく、普通の科学知識もやばい。


「火が燃えるのに必要な物を書けという問題が入試にあったよね」

「ええ」

「どう答えた」

「燃える物と火種と答えたわ」

「俺は温度、酸素、燃焼物と答えたけど」

「温度、燃焼物の学説は聞いた事があるけど、その学説は少数派だわ」


 おう、酸素も判明してないのか。

 そう言えば俺って酸素の言葉を『酸』と『もと』って言葉をくっつけて書いた。


 うお、中二病とか変な奴とか思われたかも知れない。

 そう、考えてみると首席を取れたのは奇跡だな。


「タイト、難しい顔してるね」


 マイラが俺の顔を覗き込む。


「何でもない」

「悩みがあるのなら話して」

「私も首席の悩みを聞きたいな」

「どうやら俺は怪物らしい」


「タイトはタイトだよ」

「何を今更。バリアを発明したんでしょ。普通じゃない事ぐらい分かる。ループだってあんな発想はしないわ」

「確かに普通ではないよな」

「悩んだら、魔王でも目指したら良いわ。私は壁に当たったら、絶対、魔王になるんだって、自分に言い聞かせてる」


 魔王って何?

 人類を虐殺でもするのか。

 そう言えば魔王研究会があったな。

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