第29話 魔王と、兄弟の戦いと、狩りの計画

「魔王って何?」

「童話を読んだ事がないの?」


 セレンが不思議そうに俺の問いに問いを重ねた。

 家の本には童話はなかったな。

 子供部屋には置いてあったのかも知れない。

 でも、そこにはニオブが居たからな。


「読んだ事が無いんだ」

「良いわ、レクチャーしてあげる。色々と魔王の逸話はあるけど。魔王には二種類あるわ。モンスターの王と魔法の王よ」

「モンスターの王は分かる。キングウルフとかああいうのだろう」

「そうね。もっと凶悪な奴だけど」


「人間の方は分からないな」

「モンスターの王を単独で倒した人物とか、魔法で成り上がった王がそう呼ばれるわ。もっとも人間の魔王は俗称で、魔法王が正式な呼び方よ」


 俺の実力って、魔王級はあるのではなかろうか。

 だが、俺の魔力は高くない。

 防御が紙装甲だ。

 バリアはあるが、あんなのはただの盾と変わりない。

 アンバランスだな。

 攻撃特化と言えば聞こえが良いが、戦いになると真っ先に死にそうだ。


 この辺りは後で改善しよう。


 前方に目をやると、アノードとカソードがまだ戦っている。


「【水球発射】【水球発射】【水球誘導弾】。これでどうかな」


 アノードが水球を三つ放つそのうち一つは誘導弾だ。


「【水の盾】。まだまだぁ。うわっ危ない」


 カソードは盾を出すと誘導弾を防ぎ、残りの水球はさけた。


「【水球発射】【水球発射】。そら、お返しだ」


 お返しとばかりにカソードが水球を二つ放つ。


「【水球発射】【水球発射】【水球発射】。弟よ、甘いな」


 アノードが水球を三つ放ち、そのうち二つが相殺された。

 最後の水球がカソードに迫る。

 カソードは水球をギリギリでかわした。


「ふぅ、危ない」


 どうやら、アノードは手数で圧倒しているようだ。


「【水球生成】【水球発射】【水球誘導弾】。これが避けられるかな」


 アノードが攻撃を放つ。

 ただの水球と、水球の攻撃が二つ。

 ただの水球は何に使うんだろう。


「ちょ、たんま」


 最初に水球が出来上がり、一直線にカソードへ向かう。

 そして誘導弾が出来上がりカソードに向かう。

 最初に作った水球は時間差で頭上に出来上がった、

 離れた所に魔法を作るのは時間が掛かるのだな。


 カソードは頭上に出来た水球に気を取られ、誘導弾の餌食になった。

 頭上に物を作るのは中々良い手だ。

 岩とかでやられたらたまらない。


 結局、兄のアノードが手数で押し切って勝った形だ。


「どうだね。首席君から見て弟の実力は?」


 アノードが俺に感想を求めてきた。


「よく見てなかったけど、善戦してたと思う。手数で負けるなら、魔道具を使ったら良いんじゃないかな」

「兄貴、金貸して」

「弟よ、働いて稼ぐのだな」


 俺が作ってやるとは言わない。

 そんな事をしていると墓穴を掘るような気がしたからだ。


「材料を集めて自分で作るのはどうかな」

「ナイスアイデア! 兄貴、週末にモンスター退治を付き合って」

「仕方ないな」


 アノードも弟には甘いらしい。

 二人はモンスター退治の計画でも練っているのだろう、話し合いながら去って行った。


「私もモンスターを狩って作りたい。誘導弾の魔道具がいいわね」


 セレンがそう言ってきた。


「しっしっ、一人で行け」

「聞いたぞ。楽しそうな催しだ。皆で行こう」


 いつの間にか合流したエミッタがそう言った。


「近場だとゴブリン退治か。あまり美しくないね」


 そうアキシャルは言っているが、少しも嫌そうじゃない。


「仕方ない。ひよっこ共にEランク冒険者のマイラが手ほどきしてやる」

「ゴブリン退治はやった事があるから、危険はないだろう」


 俺達5人はゴブリン退治に行く事になった。

 ゴブリンの魔石ぐらい買えば良いと思わないでもない。

 銅貨1枚だからな。

 冒険者ギルドから買ったら、銅貨3枚ぐらいか。

 子供の小遣い程度の値段だが、自分でモンスターを仕留めて作るのが良いのだろう。

 たまにはこういうのも、いいのかも知れない。

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