第309話 国境と、力こそ全てと、情勢

 2週間掛けてディッブ国境に到着。

 ここからは、森が少なくなってサバンナになる。

 国境には砦があるだけで、関所みたいな物はない。

 商人もほとんど通らないらしい。


「トレン、ディッブからの迎えは来ないのか?」

「来ているはずだ」


 浮いている家を下ろした方が良いのかな。

 そう考えていたら、モヒカンの男がジャンプして家の庭に着地した。

 おお、素晴らしい身体能力だ。


「出迎えご苦労」


 俺は家から出て庭で挨拶した。

 男は俺をジロジロ見て。


「強いのか? 強そうには見えないな」


 そう言って唾を吐いた。


「ええと、力を示せと言うんだな。【100万魔力火球】」


 家より大きい火球が空に浮かんだ。


「流石、国の特使だな。ディッブに入る資格があるようだ。よかろう、歓迎する」

「それはどうも」


 俺はこの国でやることは戦争回避だ。

 だが、どうやらこの国では力こそ全てらしい。

 身体強化の魔法はあるけど、肉体で語り合えなんて展開は好きじゃない。


 男を家に招いた。

 そう言えば名前も聞いてないな。


 男にマイラ達を紹介した。


「マイラか、いい女だ。俺の女になれ。俺はイーサだ」

「お断り」

「気の強い女は好きだ。丈夫な子を産む女は強くなければな」


「マイラは俺の婚約者だ。手を出すというなら、覚悟をしてもらおう」

「俺達はいつだって命がけだ。他の国のぬるい奴らとは違う」


「イカクイスネ・チソカ・リニノイ・チ・モイトトイミキイス」


 トレンがイーサを咎める口調で言った。


「イーサ、使者らしくしなさいと言っています」


 リッツが翻訳してくれた。


「クモモネ・イヒイミ・カクラナキク・ニカやト・マナトカ・コリララシ・チミシ・テイチノ」


 軽蔑したようなイーサの口調。


「ふん、血筋だけで弱いくせにと言ってます」

「ニハ・ンラナ・テニミネ・カチノイ・ニカ・チカ・チミン・カニモイ」


 トレンは受けて立つようだ。


「勝負するなら何時でも受けると言ってます。さすがトレン」

「ここは、お前の顔を立ててやろう」


 そう言うとイーサは文官に案内されて去って行った。


「イーサって強いのか?」


 俺はマイラに聞いた。


「トレンより弱い」


 トレンより弱いのか。

 それなのに虚勢を張ったのか。

 口だけ番長みたいな奴だな。


 ひょっとして俺はかまされたという奴か。

 怒ったら良いのか、軽蔑したら良いのか、迷うところだ。


 戦闘力を見せつけて誇るのは何か違う気がする。

 それだと相手の土俵に乗るということだ。

 戦いは始まったのだな。

 相手のペースに乗ってどうする。


 ここは鷹揚に構えていくのが大事だな。


「見下げ果てた奴だ。人間の価値を戦闘力でしか測れないとはな」


 俺の言葉のチョイスは間違っていなかったようだ。

 マイラ達にも落胆したような感じはない。

 頷いて賛同してくれている。


 だが、トレンは頷いていなかった。

 トレンは戦闘力が大事だと思っているらしい。

 この国で大暴れして、認めさせるのは簡単だ。

 しかし、それでは正常な国同士の付き合いとは言えない。


 戦闘力は確かに外交に必要なのは認める。

 だが、それは1部分にしか過ぎない。

 この国との付き合い方をどう決めるか考えないといけないようだ。


 マイラ達4人を集めた。


「この国とどう付き合ったらいいと思う」

「子分にしちまえばいいんじゃない」


 とマイラ。


「属国にするですよね。それですと、常に反乱の危険性を伴いますわ」


 レクティが意を唱えた。


「仲良くできたら、いいのかな」


 セレンがそう言って考え込んだ。


「戦争と決まったわけじゃにいのよね。話を聞かないことには、相手の不満がどこにあるかさえ分からない」


 リニアが意外に慎重論だ。


「最初はかまさないと」


 マイラが意気込んでそう言った。


「それは一理ある」


 納得したようなリニア。

 二人とも血の気が多いな。


「とりあえず何が不満なのか知りませんと」

「そうね。言い分を聞くのは大事」


 そう、レクティとセレン。

 そうだな。

 交渉なのだから、意見を聞いてみないとな。


 落としどころが見えてくるかも知れない。

 俺はリッツを呼んだ。


「ディッブは何が不満なんだ」


 下調べとしてリッツに聞いた。


「力があると思っているんだよ。だから、なんで貧しさを受け入れないといけないのかと思っている」

「じゃあ、何で攻めて来ない?」

「ディッブは個が基本だから、軍勢を組むことを嫌がる」

「そりゃあ勝てないよな」


「まあね。トレンもそれで悩んでる」


 暴君ばかりの集まりみたいだ。

 たぶん軍勢を組むと、喧嘩して空中分解するんだろうな。


「それでもって威力10倍の新魔法か」

「このままだとディッブはうちの国に飲み込まれるから、焦っている」


 要するに、俺の国に武力で太刀打ちができなくなった。

 属国も嫌なのだろうな。

 武力が全てなんて思っている国は俺も属国にするのは嫌だ。


 双方が属国が嫌か。

 戦争するなら、武力がなんとかなる今がチャンスと見ているに違いない。

 でも、色々あって戦争もしたくない。

 かなり複雑だな。

 たぶんこの国にも主戦派と和平派がいるのだろう。

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