第310話 サバンナと、通過儀礼と、戦利品

 ディッブ国のサバンナ地帯を大邸宅が飛行する。

 景色は灌木とちょぼちょぼと高い樹が生えているだけの場所。


「こんな場所で暮らすのは大変だな。もっとも水は魔法で出せるから何とかなるかも知れないけど」

「ディッブ人しか知らない秘密の井戸があるんだよ」


 リッツが自慢げに教えてくれた。


「しかし、住んでいるモンスターは凶悪なのばかりだ」


 眼下に見えるモンスターを見て俺は言った。

 前世の象の何倍もあるモンスターが闊歩しているのだ。


「ディッブ人の男は一人でモンスター倒すのが通過儀礼なんだって」

「リッツも挑戦するのか? トレンに認めて貰いたいんだろ」

「くっ、男にはやらねばならぬ時がある。ソ・ミミカ語の呪文さえあれば出来るはずだ」

「頑張れよ」


「くそう、何で誰も止めないんだ」

「止めて欲しかったのか」


「同志よ、この飛んでる家の庭から魔法を降らせてみたらどうだ」


 ベークがアイデアを出した。


「ありがとう。それなら、俺にもできる」


 そんなんで良いのかよ。

 安全地帯から嵌め技を使うなんて、男らしくない。


 トレンはもくもくと筋トレしていて、興味を示さない。

 リッツ、無視されているぞ。

 呆れられているだけかも知れないが。


 リッツ達が庭に出て行く。


「前進を停めてくれ!」


 家を操縦している文官に向かってリッツが叫んだ。

 家がゆっくりと停まる。


 窓から見ていたがリッツは魔法を撃ち始めた。

 30発ほど魔法を撃ってなんとか仕留めた。


 俺は庭に出てみた。


「通過儀礼はまだ終わってない。戦利品を死骸からはぎ取って持ち帰らねば」


 トレンも外に出て来てそう言った。


「えっ」


 倒したモンスターの死骸には肉食のモンスターが群がっている。

 さあ、リッツよ、降りて勇気を示すのだ。

 リッツの顔は青くなり、冷や汗をかいているようだった。


「がんば」


 俺はリッツの肩を叩いた。


「同志、どうしたらいい?」

「僕が考えるに、死骸が骨と皮になって、モンスターが散ってから、下に降りるべきではないかな」


「そんなに待てないぞ」


 俺は無慈悲に告げた。


「魔法で引き寄せればいいんだ」


 まあ、安全にやるんだったらそうだな。

 ソ・ミカカの魔法を作り出すには、C言語の呪文が必要だ。

 それを考えたのかリッツは俺を見つめた。


「条件次第では魔法を作ってやる」

「分かった。ディッブ国にいる間の通訳は無料でする」

「おも研のメンバー全員からの要請に応えろよ。それと期限は一生だ」

「くっ、足元を見やがって」


「文句があるのか。嫌だったら家を進ませるぞ。この特使の一団で一番偉いのは俺だからな」

「もってけ泥棒」


 まいど。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

#include <conio.h>


extern MAGIC *magic_make(char *obj,int obj_size,int imege);

extern void magic_lift(MAGIC *mp,int lift_height_cm);

extern int mclose(MAGIC *mp);


char bone[100000]; /*骨*/

void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 int i=0;

 mp=magic_make(bone,sizeof(bone),IMAGEPIPE); /*骨を魔法として登録*/

 while(1){

  magic_lift(mp,i); /*石を浮かす*/

  i++;

  if(kbhit()) break; /*何か入力されたら止める*/

 }

 mclose(mp); /*魔法終わり処理*/

}


 ベークとリッツで翻訳して、ソ・ミカカ語の魔法が完成した。

 魔法で骨がゆっくりと持ち上げられて、僅かに付いている肉と皮も一緒に持ち上がる。

 リッツが血まみれになって、やっとのことで庭に残骸が引き上げられた。


 うわっ臭いな。

 腐敗が既に始まっている。

 内臓の匂いかも知れない。


「しかし、でかいな。餌はどうしたんだ。草食獣の餌がふんだんにあるとは言えないぞ」

「河があるんだ。それも形を常に変えるのが。河ができた跡は緑の絨毯ができるんだ。イミキリニトク・ミカカ語で、キスイイミ・スラチシというらしいよ」

「そうか。草食獣は河を追って常に移動しているんだな」

「そうみたい」


 定住する環境ではないな。

 ディッブ人は狩猟民族らしい。

 相手がモンスターだと強くなるのも頷ける話だ。


「それにしても家がないな。どこで暮らしているんだろう」

「草食獣を追って、テント暮らしらしい。首都は違うらしいけどね。首都は森の中にあるとトレンが言っていた」


 ディッブを豊かにするなら、魔法で水を出して、畑をやるべきだな。

 モンスターの対処ができれば、開拓は容易いだろう。

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