第257話 卒業式と、周辺国と、摩擦

 今日は卒業式。

 親しくしている知り合いで卒業する人はいない。

 パーティには顔を出したところ、オルタネイト伯が近寄って来た。

 何か話があるのかな。


「何か問題でも?」

「いいや、すぐにどうという事はない。ただ、周辺国は騒がしくなっている」

「周辺国というとプランジャ、ディッブ、ロータリの3国だよね」

「そうだ。プランジャは宗教の国。魔法の神を信仰している。魔力量で身分が決まるような国だ」

「それはうちの国も同じなのでは」

「あの国はそれがもっと酷い。それで魔力アップの魔道具が流れて一悶着起こりそうだ」

「どう言っているの」

「魔道具に頼るのはけしからんと言っているが、魔力量による権威が揺らいで、騒ぎになっている」

「輸出しなければ良いと思うけど」

「密輸が絶えないんだよ。需要はあるからな」

「戦争になりそう?」

「分からない。ただ摩擦は大きくなる一方だろう」


 ふーん、きな臭い話だ。

 魔力アップの魔道具は人気商品だ。

 平民の平均は魔力100だから、100倍の1万になる魔道具は魅力的だ。


 魔導師が衰退した穴を埋めているとも言える。

 モンスター被害は確実に少なくなっているのがその証拠だ。

 プランジャ教国と戦争になっても良い勝負になるだろう。

 いや、圧勝かな。

 兵士の強さが100倍になれば負けないはずだ。


「魔力アップの魔道具で抑止力にならないかな」

「既になっているが、それが原因とも言える」

「とりあえず様子見だね」


「ディッブは蛮族の国で、あそこも不気味だ。最近になって商人が襲われたという報告が多数入っている」

「盗賊かな?」

「いいや部族が略奪を働いている。積極的に殺しはしない。商品と金を取り上げられて、放り出されるようだ」

「うーん、やっぱり盗賊だね」

「やっている事はな。だがモンスターに襲われていると助けてくれたりもする。お金と商品は巻き上げられるが」

「私掠船みたいなものかな。部族の長老辺りが略奪の許可を出している?」

「いやもっと上だな。王が許可を出している節がある」

「鎖国したいのかな?」

「もっと性質が悪い可能性がある。戦争の準備だ。その証拠に食料と武器の商人は襲ってない。食料と武器はいくらでも買い上げるそうだ」


 こっちもきな臭いか。


「じゃあ、ロータリもきな臭そう?」

「魔法陣製品と魔道具の販売で摩擦が起きている。我が国は貿易が大黒字なんだが、あっちからすると大赤字だ」

「ロータリは商国だったよね。輸出品とかないの?」

「あるが、貿易の不均衡をどうにかするには至ってない。問題はロータリから魔石を仕入れて魔道具として輸出しているところだ」

「それはうちの国が儲かるよね」

「一度できた流れはどうにもならない。関税でなんとしようとしているが、効果は薄い」


 うちの国の戦力は上がっている。

 でも摩擦も増えている。


「周辺国は経済的にはどう?」

「好景気だな。魔道具の売買だけで好景気になっている」


 物が売れれば好景気になるよね。

 貿易赤字でそのうちに首が回らなくなるけども。

 馬鹿な奴が戦争するなら今のうちとか言いそうだ。


 貿易の不均衡をどうにかするなんて出来ない。

 特産品を作るのはその国の責任だ。

 だけど、どうにかしないとやばいんだよな。

 魔道具の生産を辞めるのは不味い。

 不満が溜まる原因にもなりかねない。


 食料を他所から買う必要はあまりないんだよな。

 うちの国、自給率は高い。

 特産品を作るなら嗜好品とか高い物を作ればいいのに。

 外国にはそう言ってやりたい。


 エネルギーが魔力で賄われているから、エネルギー資源でどうこうと言うのがない。


「ロータリには魔力を輸出させたら?」

「魔力ならうちも余っているだろう。輸入する必要がない。武器に転用するなら悪辣な一手だな」


 それも不味いか。

 どこの問題も一筋縄ではいかないな。

 でも、俺が解決するような問題でもないんだよな。

 国の偉いさんが対処する問題だ。


「とりあえず。戦力アップで抑止力という手しかないね」

「緊張が高まる未来しかないな」

「しょうがないでしょ。国が豊かになると妬む国が出てくる。それだからと言って貧しくはなれない」

「新魔法が鍵だな。あれでまた世界が変わる」


「レクティからの報告書を読んだみたいだね。既存の10倍の性能がどう影響するかだ」

「プランジャ教国とロータリ商国はさほど影響を受けないだろう。問題はディッブだな。あそこは魔法後進国だ。魔法の威力が10倍になれば必然的に弱くなる。プランジャ教国とロータリ商国が侵略してもおかしくない。あるいはうちがな」


 ディッブはうちを恨むだろうな。

 余計な技術を開発しやがってと。

 その前にプランジャ教国とロータリ商国がどう動くかだ。

 ベークが台風の目になるのか。

 ベークには色々と努力して貰わないといけないかもな。

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