第162話 遺跡と、謎解きと、落ち

 遺跡は、既に踏破が終わり、観光名所と化している。

 移動は空飛ぶ板を使ったので1日で着く事ができた。


「ふむ、面白そうな所なのだ」


 露店が軒を連ね、たくさんの観光客がそれを冷やかしている。


「露店は後回しにして遺跡から行こう」

「そうね、そうした方が良さそう」


 セレンが俺の意見に賛同してくれた。

 ちょっと不満げなエミッタを除いて、他のメンバーは異論はなさそうだった。


 遺跡の入口は崩れているが、破片などは綺麗に掃除してある。

 よく見るとこれ以上崩れないように補強してあった。

 観光地だな。


 半分崩れた入口をくぐると室内の屋根はなかった。

 崩れた壁と柱があるだけだ。

 モンスターの影もない。


 案内板が設置してある。

 読むと今から3千年前の建物で、寺院だったらしいと書かれている。


「ここからは分かれて探すのだ。一時間後にここに集合なのだ」


 魔法陣の腕時計を見て時刻を確認する。

 こういう場所で怪しいのは祭壇だろう。

 仕掛けがあって、地下への入口なんかが現れたりする。

 お約束という奴だ。


 俺は祭壇の部屋に行った。

 石で出来た祭壇がある以外は殺風景な部屋だ。

 魔法で地下の様子を確かめたが、空洞はない。


 お約束が通用しないとは、驚きだ。

 主神の像があった場所は土台だけ残っている。

 次はそこを調べる事にした。


 別に何にもないな。

 次のお約束と言えば隠し部屋か。

 これはマッピングしないと分からない。

 俺は地図を作り始めた。


 途中、マイラと出会った。

 マイラの手には地図が既にある。


「マイラ、地図はどうした?」

「入口のそばで買った」


 くそう、お約束をことごとく外してくるな。

 それと、お約束と言えば、スイッチだな。

 誰かがうっかり触ってしまうんだ。

 俺はそういうキャラじゃないから、そういうのはエミッタかアキシャルの担当だな。


 ありそうなのは、水をどこかに入れるとか、光を当てるとか、火を灯すとかだな。

 そういう箇所はなさそうだ。


 聖水銀があるという遺跡は、本当にここで合っているんだろうな。

 キーアイテムみたいなのがあれば、ヒントになるのだが。


 水場があって井戸があったので調べてみた。

 横穴もないし、怪しい所はない。

 井戸が枯れていたので、魔法を使い水を満たす。


 何も起きないな。

 あれっ、井戸の中に光る物がある。

 何だろう。

 水を入れると光るのかな。

 確かめる為に水を抜くのは厄介だ。


 光る物が動く。

 観察していたら30センチぐらいの海老だった。


 水を満たしたから、水源から入って来たのだろう。

 魔法で海老を捕まえてみた。

 金属光沢の海老とは珍しい。

 美味いのかな。


 海老を剥いてみる。

 身も金属光沢がある。

 魔石を持っているからモンスターだと思う。

 幼体かな。


 これを絞ったら聖水銀なんて落ちじゃないよな。

 なんとなくやってみた。

 水銀みたいな体液が採れた。


 毒検知の魔法を掛けると毒ではないらしい。

 煮てから舐めてみた。

 味は海老の出汁だな。

 そのまんまだ。


 集合場所にはみんな集まっていた。

 俺が金属光沢の海老の出汁が入った試験管を振ると、みんな驚いた顔をした。


「どうやったのかね?」

「これ、海老の出汁なんだよ」

「えー、本物だと思っちゃった」


「詐欺師が、これを聖水銀だと偽ったのかも知れないな」


 その時、遺跡が揺れた。

 慌てて遺跡から出ると、遺跡脇の湖で水柱が上がった。

 10メートルぐらいの海老が見える。


 10メートルの体では遺跡は揺れないだろう。

 もっとでかいのがいるのかな。


「あんな事はしょっちゅうなのか?」


 俺は露店の店主に話し掛けた。


「メタルシュリンプだよ。幼体は串焼きにすると美味いぜ。あんなでかいのは久しぶりだが。たまにある事だ」


 海老は別に不思議じゃないらしい。


「リラ、聖水銀の情報は誰に聞いた?」

「えっと、知り合いだけど。何で?」

「からかわれた可能性がある」


 リラの瞳に殺気が宿った。


「ぶっ、ころ」

「えっ?」

「ぶっ、ころころって笑ったのよ。きゃぴ」


 リラは誰かに騙されたのか。

 まあ、ありがちといえばありがちだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る