第55話 秘密クラブと、噂話と、伯爵の危機

 姿隠しを使ってあのバーに戻る。

 少し待つとローブ姿の魔導師と思わしき奴が来て、合言葉を言い扉が中から開けられた。

 そして奥の部屋に。

 俺達も隙を見て中に入った。


 中はローブを来た魔導師で一杯だった。

 なるほどな、魔導師限定の秘密クラブというところか。

 話に耳を傾ける。


「剣技大会は儲け損ねたな」

「ああ、去年までは、ばれなかったのにな」

「噂では生徒会長が切れ者で、不正を見つける魔道具を作ったらしい」

「ほう、どういう仕組みだろう。ファラド一族に勧誘してみてもいいかもな」


 生徒会長に忠告しておかないと。

 生徒会長は現時点でファラド一族と何にも関係ないと分かった。

 今後もそうとは限らないが、いまは味方だということだ。

 別のテーブルに行く。


「嘘判別の仕事は神経使うよな」

「魔導師の収入源だから、仕方ない」


「正直に結果を伝えるだけなら良いんだが、容疑者がファラド一族と懇意だと、嘘の結果を伝えないといけない」

「真実と嘘を上手く混ぜるのが上手い手だよ。なんらかの犯罪をやったとしても、罪が軽くなるように誘導するんだ」


「それが神経使うって言うんだ」

「まあ仕事だからな。良い金になる。国からも金が貰えて容疑者からも金が貰える」

「まあそうなんだが」


 嘘判別魔法は神秘魔法名を使うから、魔導師しか行使できないのは知っていたが、こいつら腐ってるな。

 犯罪者が野放しという訳ではないが、金を貰って罪を軽くするのか。

 別のテーブルに行く。


「今日も鑑定の仕事にありつけたぜ」

「そいつは羨ましい」


「おうよ。鑑定を頼むのは大抵が貴族だ。伝手もできるし結果が良いとご祝儀も増える」

「俺にも貴族を紹介しろよ」


「お前、礼儀作法が出来るのか? 最低でもそれが出来ないと話にならないぞ」

「何の仕事でも特別な技術だな。俺は何で記憶力なんだろうな」


「いいじゃないか。一度鑑定した神秘魔法名を忘れないってのは。俺は意味のない言葉の羅列は覚えられない」

「まあ、賞金稼ぎみたいな事をやって稼いでいるけども。犯罪者相手は気の休まる時がねえ。命を狙われないのは、このクラブにいる時だけだよ」


「そりゃ仕方ないな。犯罪者を殺しまくってればな」

「犯罪者だけじゃないぞ。悪徳貴族や魔導師に逆らった、裏の賞金首の奴らも、沢山殺した」


 こいつも腐ってやがる。

 まともな奴は、ここには居ないみたいだ。


「聞いたか。暗殺部隊が動くらしいぞ」

「ターゲットは誰だ?」


「オルタネイト伯爵らしいぜ」


 やっぱり死亡フラグだったか。

 思わせぶりな言葉を吐く奴は死亡フラグが立つ。


「伯爵は何をやったんだ?」


「魔導師敵対組織のレジスタというのがあるだろう。それに資金提供しているらしいぜ」

「仕方ないな。レジスタのせいで何人もの魔導師が犠牲になっている」


「襲撃の日付は今日だ。間違ってもオルタネイト邸には行くなよ」

「おう、暗殺部隊はファラド一族で極秘だからな。間違って神秘魔法名なんか鑑定した日には、粛清されること請け合いだ」


 オルタネイト伯爵を助けてやるか。

 暗殺部隊は俺の所に来る可能性もあるからな。

 実力を見ておきたい。


 俺達は誰にも気づかれずにバーを出た。

 ニオブ達の手掛かりは掴めなかったが、色々と話が聞けた。


 オルタネイト邸に行くと厳重な警備をしていた。

 多数の私兵が塀の内外を問わず巡回している。

 これだけ厳重なら、簡単にはいかないような気がする。

 俺達は姿隠しを使って門の内側に入り、オルタネイト伯爵を探した。


 ある一角で香水の匂いがした。

 通信魔法でマイラにその事を伝えると、暗殺者は香水は付けないと言われた。

 それもそうか。


 執務室だろうなとあたりを付けて探した。

 メイドがお茶のワゴンを押していたので後をつけると、中庭にテーブルがあり、オルタネイト伯爵が執務をしていた。


 こんな所にいたのか。

 こんなに開けた所に居るんじゃ狙撃してくれと言わんばかりだ。


「影武者も楽じゃないな。いい仕事だと思ったんだが」


 こいつは影武者か。

 やるな。

 話を聞かなければ分からなかった。

 神秘魔法名で判別した方がいいらしい。


 たぶんだが、伯爵は襲撃を知っていると思う。

 警戒が厳重で影武者を用意しているのはおかしい。

 伯爵も無能ではないな。

 情報収集は抜かりがないんだろう。


 でもどこにいる?。

 探知魔法を作るべきか。

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