第203話 飼い主探しと、ゴブリン農場と、内職

 茶トラの飼い主探しが始まった。

 引き取りたいという人は現れない。


「わたくしが引き取ってもよろしいのですけど」

「レクティの所は駄目だ。だって猫を諜報活動に使うだろう」

「そうですね。訓練された猫はなかなかいないですから」


 そうなんだよ。

 茶トラ猫は訓練されていた。

 簡単な鍵開けさえやってのける。

 構造によっては入ったら閉める事も忘れない。


 食べ物を隠していても、見つけ出し食ってしまう。

 食った痕跡を隠すおまけ付きだ。

 たしかにここまで賢い猫はいない。


 モンスターの血が入っているような気もする。


 仕方ないので元締めを頼った。


「いつ裏切るか分からない猫を預かってほしいんだけど」

「猫使いにでも訓練された奴か」

「まあそんなところ」


「ならゴブリン農場だな。あそこならゴブリンの飼育ぐらいしか秘密がない。ゴブリンの飼育方法を盗まれても痛くもかゆくもない」

「ありがと」


 茶トラ猫をゴブリン農場に連れていった。

 ゴブリン農場は拡大していた。

 もう村の規模じゃない。

 ゴブリンの数も1000を超えるんじゃないだろうか。

 ゴブリンは長い毛を生やして、食っちゃ寝している。

 相変わらず働いている飼育員は、荒くれ者が多いが、実に長閑だ。


「猫を引き取ってほしいんだけど」

「いいぜ。1匹ぐらい食い扶持が増えても問題ない」


 俺は茶トラ猫をケージから出した。

 茶トラ猫は新しい場所に若干戸惑ったがすぐに慣れたようだ。

 道具の隙間に入ってくつろいでいる。


 せっかくだから、農場を見学する。

 ゴブリンは喉が渇くと生水の魔道具の所に行って水を飲む。

 勝手に魔道具を操作している。

 今は寒いから、火の魔道具にあたっていたりもする。


 温水を出す魔道具で風呂にお湯を張って、入ったりもする。

 のぼせると送風の魔道具で涼をとったりも。


 文明的な生活をしてやがるな。

 弓矢を使う頭があるのだから、魔道具ぐらい使うか。


 茶トラ猫が来た。

 茶トラ猫はゴブリンが水を飲むのを見て、生水の魔道具を操作して水を飲む。

 馴染んでいるようで良かった。

 ゴブリンに虐められたりもしてないようだ。


「あの、ゴブリンに内職をさせたらどうかな」

「ほう、そいつは良いな」


 俺は石のブロックを作る魔道具を設置した。

 ゴブリンは試しに何回かやってみたが、すぐに飽きた。

 上手くいかないな。

 ああそうだ。

 前世のテレビでチンパンジーに計算を覚えさせようとしてたな。

 その時、正解したら餌を自動で出すようにしてたっけ。


 石のブロックを作ったら、おやつを出せば良いのか。

 おやつをあらかじめ作っておいて召喚するのは容易い。

 ただ、魔力の問題があるんだよな。

 おやつを作った人の魔力が染み込むと他人には召喚できない。


 解決策はある。

 染み込んだ魔力を抜けばいいんだ。

 無事、ブロックを作る魔道具は完成。


「ところで、石のブロックを誰が運ぶんでさぁ」


 輸送は考えてなかったな。

 ゴブリンが反乱した時の事を考えて、ここは少し王都から離れている。

 石のブロックは重い。

 輸送も手間だ。


 俺は浮遊する板の魔道具を作った。

 これを馬車に連結すれば問題ないだろう。


「おやつが足りないぜ」


 おやつは練った低品質の小麦粉に、訳ありの果物の汁を混ぜて焼いた物だ。

 低品質の小麦粉は安く手に入る。

 問題は訳ありの果物だ。

 鳥に半分食われたりした物でそんなに数があるわけじゃない。


 糖分というのは、いろんな草に含まれている。

 召喚も出来るが、不純物が混ざる為、不味い。

 製糖魔法なんてどうやるんだ。

 そんなのイメージできないぞ。


「ちょっと、この失敗作の砂糖をもらっても良いですかい」

「いいけど」


 飼育員が失敗した砂糖でおやつを作る。

 それをゴブリンに食わせた。


「ぐぎゃぎゃ」


 喜んで食うゴブリン。


「美味いか。もっと食っていいぞ」


 えっ、苦くてまずいだろ。

 えぐみもあるし。


「やつら、雑草でも何でもくっちまいます。苦いぐらいへっちゃらってもんです」


 野生では調味料なんてないからな。

 確かに飢えれば何でも食うだろう。

 人間より胃腸は丈夫そうだし。


 ゴブリンに投げたおやつの一つを茶トラ猫が奪う。

 茶トラ猫は、匂いを嗅いで食わなかった。

 本当にこの猫賢いな。

 体を壊すような物は食わないらしい。


 やり直しを要求するとばかりに、飼育員に詰め寄る猫。

 飼育員は魚の干物を裂いて猫にやっている。

 茶トラ猫はここでなんとかやっていけそうだ。

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