第204話 建国祭と、勝負と、デコの体験会

 街は建国祭一色。

 たしか、去年はパンチングマシーンを作ったっけ。

 今年も何かやらないといけないのかな。


「みんなに集まってもらったのは、建国祭の出し物をどうするかという事なんだ」

「今年はやらなくていいんじゃない」


 マイラがそういった。


「俺もそう思う。ソレノちゃんと色々見て回りたい」

「いや、やるべきだ」


 コネクタが反対意見を言う。


「じゃあ決を採ろう。やる事に賛成の人は手を上げて」


 ええと、マイラは手を上げない。

 レクティは上げて。

 リニアも上げて。

 セレンは上げない。

 リッツは上げない。

 コネクタとベスは上げたと。


 4対3でやる方が優勢だな。

 俺が反対に回ると同点だ。


 突然、おも研の部室の扉が荒々しく開けられた。


「セレン嬢、こんな所にいたのか。僕は君と建国祭を祝いたい」


 誰だこいつ。


「ベーク、あなたとは付き合えないと何度言ったら。私はタイトと婚約しているのよ」


 この男はベークというらしい。


「こんな誠意がない4股男は、婚約破棄するべきだ」


「話は聞かせてもらったわ。男なら正々堂々決闘で勝負よ」


 マイラが目を輝かせてそう言った。

 マイラ、楽しんでいるな。

 どっちに転んでも良いという事なのだろうか。


「めんどくさいけど、やらないといけないみたいだな。ちゃっちゃと済ませよう」

「分かった。セレン嬢を賭けて勝負だ」

「戦闘で勝負するのか? なんなら今からでも良いぞ」

「ぐっ、勝手に勝負方法を決めるなんて、卑怯だ」


 俺の事は調べたらしい。

 噂が半分でも学園の中では強い方だからな。


「じゃあどうするんだ?」

「けっ、建国祭の出し物で勝負だ」


「という事は出し物に参加した人数を競うのね。判定は生徒会にやってもらいましょ」


 マイラは気安く言うが、カソードは過労死したりしないだろうな。


「いいだろう。僕は負けない。セレン嬢待っててほしい。いましばらくの我慢だ」

「別に待ってない。あっ、行っちゃった」


 ベークが去って行った。


「私、カソードに話をしてくる」


 マイラも出ていった。

 さて、出し物をどうするかな。

 集客力がある催し物ねぇ。


 ああ、そうだ。


「魔道具デコの体験会を開こうと思うんだが」

「それは良いアイデアですわ」


 レクティが賛成したのは魔道具が売れるからだろう。

 反対する人間はいない。


 出し物は決まったから、後はルールに沿って準備だな。


「そうだ。セレン、婚約破棄したいなら、いつでも言ってくれ」

「酷い」

「そういう時に殿方は、『心配しないで、絶対にあんな奴には渡さないから』と言うものですわ」

「ごめん。でも、負けるつもりはない」


 しばらくしてマイラが帰ってきた。


「どういうルールになった?」

「あのね。生徒会が催し物のチケット1枚を、銅貨10枚で売るってなった。どっちの券が沢山売れるかで競うのよ」


 銅貨10枚なら、デコの材料にも釣り合うだろう。

 別に赤字になっても良いみたいだし、あんまり気にする事でもないか。


 コンテスト形式にして、賞品を出そう。

 これならやる気が出るに違いない。

 商品は魔道具で良いとして。


 いきなりデコをやれって言われて、躊躇する人もいるだろうな。

 見本を作るべきだな。

 それと教師役を用意か。

 作業台も必要だな。

 材料を沢山用意しないと。


 紙にリストを書いていたら。


「教師役は任せて下さい。オルタネイトから人員を出します」


 レクティがそう言ってくれた。

 材料は元締めの所に発注するとして。


「机なんかは私に任せて」

「リニアに伝手があるの?」

「古くなった机の処分を頼まれてたのよ」

「そう、じゃ任せた」


「俺達は連絡係をするよ」


 コネクタがそう言った。


「任せた」


「私は……」

「セレンさんは座って見ていて下さいまし。勝負の賞品ですから」

「ええ」


 少し寂しそうなセレン。


「セレンには食事の手配を頼むよ」

「うん、やる」

「私もそれがやりたいな」


「じゃあ、食事の手配はセレンとリニアに任せた」


「私は元締めの所に材料の発注かな」

「そうだね。マイラが顔見知りだから、頼むよ」


「俺はソレノちゃんと見本を作るよ。こう見えて、芸術にはうるさいんだ」

「リッツ、頼んだ。それと、ビラとか宣伝も必要だな」


「魔法陣ラジオを使えないか聞いてみますわ」

「悪いな」

「いいえ、オルタネイトの商売の為ですから」


 俺が何もしなくても、準備は着々と進んで行く。

 なんだかんだ言って、みんなやりたかったのかもな。

 わいわいやるのも楽しいものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る