第138話 肉弾戦と、大食いと、リラの生い立ち

 3日目、2回戦が始まる。

 何となく気になったので、リラの観戦に行く。

 リラの相手は、蛮族のような出で立ち。

 上半身には派手な首飾り以外は身に着けていない。

 ペイントなのか入れ墨なのか分からないなが、模様が肌に描かれている。

 髪型もモヒカンに近いヘアスタイルだ。


 どんなファッションが好きだろうが、俺には関係ない。

 ないが、個性的だとどんな人も思うだろう。

 他国からの留学生かな。


 始めの合図と共に両者がぶつかる。

 追突音がして空気が震えた。

 身体強化系が得意な奴だったか。


 目は二人の動きを追えてないが、感知の魔法は二人の動きを捉えている。

 最初の激突はパンチの拳同士が相打ちになった。


 そして、蹴りを交えた格闘戦。

 1秒間に数十のやり取りがある。

 二人とも人間の限界を超えていないか。


 リラのパンチが一発、モヒカン男の顔に刺さる。

 二人は距離を取った。

 モヒカン男が、口の端から垂れた血を指で拭って、唾を吐いた。

 そして、リラと会話を交わした。


 歓声に包まれているので会話の内容は聞き取れない。

 モヒカン男が気合を溜める。


 湯気のような物がモヒカン男から立ち昇った。

 さっきより数段速い速度で二人が応酬を始めた。

 モヒカン男の拳に電撃が宿る。


 必殺技か?

 音速を超えたんじゃないかという電撃付きパンチが、リラの腹に突き刺さった。


 リラの動きが一瞬止まる。

 勝負あったか。

 というか、リラの最初の一撃で勝負ありだろ。

 審判をみると試合を止める気配がない。


 こいつ、二人の応酬が見えてないな。

 いや、買収されているのか。

 分からないが、審判は役に立ってないって事だ。


 動きの止まったリラから唸り声が聞こえた気がした。

 次の瞬間、モヒカン男は飛ばされ、壁に叩きつけられ、クレーターを壁に作った。

 死んでないだろうな。


 モヒカン男はフラフラと歩み出て降参の合図をして、審判が勝負ありの声を発した。

 リラが石の舞台から降りて俺の所にやってきた。

 唸り声が微かに聞こえる。

 脇にいるダイナが構えを取った。

 大丈夫かこれ。

 俺はバリアを最強で起動した。


「やだぁ、怖い顔。リラ、お腹が空いちゃった。先輩、食べても良いよね」


 リラはバスケット6つを食い入るように見つめている。

 俺とダイナはリラの気迫に押されて、サンドイッチが入ったバスケットを速攻で差し出した。

 リラが貪るようにサンドイッチを食う。

 おも研のメンバー全員分の昼飯がリラの腹に消えた。


 リラの唸り声が止まる。


「大食いなんだな」

「てへっ、だって腹ペコだったんだもん」


 ダイナが構えを解く。

 俺もバリアを解除した。


 モヒカン男も気になるが、リラはもっと気になる。


「リラはどういう育ち?」

「孤児院育ちだよーん」

「よく魔法学園に入る為の勉強が出来たな」

「親切な貴族さんが助けてくれたの」

「その貴族の名前は?」

「死んじゃって悲しいから、忘却の彼方に、ぽいぽい」


 言いたくないようだな。

 レクティはリラの事を、もう調べ始めているんだろうな。


 俺は露店で昼飯を補充してから、レクティの試合会場に向かった。

 レクティの試合は終わっていた。


「リラの情報はどうなっている」


 レクティに俺は尋ねた。


「孤児院で育った後に、ある子爵家の支援を受けてます。その貴族は病気で亡くなっているので詳しい事は分かりません」

「それはリラに聞いた話と一致するな。おかしい所はあったか?」

「いいえ、一点もありません」


 ハングリー精神があるのは分かった。

 恵まれない生活をしてきたんだろう。

 だが、あの飢えた獣のような有様はなんだ。


 子爵に人体改造されているのか。

 それならレクティが何か掴んでるはずだ。

 何かがおかしい。

 モヒカン男に話を聞いてみるか。


 俺はモヒカン男を探した。

 彼の友人に話を聞くと未熟を悟って退学して帰郷したという。

 モヒカン男の話も聞けた。

 いわくリンゴを握り潰せるだけでなく、石も握り潰せるとの事。

 こっちも、人体改造の疑いありだな。

 リラと同じ組織ではないのだろう。

 物騒な事だ。

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