第328話 同盟破棄派と、ドラゴンと、楽しみ

 ジェフトが話したいことがあると言ってきた。


「何かな?」


 俺はジェフトの屋敷に出向き、尋ねた。


「同盟を破棄しろと、どこからも力を借りたくない同盟破棄派が騒いでる」


「どうなんだ。同盟をひっくり返されそうか」

「いいや試合には勝てそうにないから、かげで騒いでいるだけだ。だが多数派だから侮れないのだ。上級戦士の誰かが動くかも知れぬ」


「試合には負けないつもりだけど」

「連戦になるかも知れない。貴殿とて集中力に限りはあろう」


「その時はマイラとリニアにでも出て貰うよ」

「女を出すと侮られて更に同盟破棄派が増えるぞ」

「そんなの気にしないよ」


「大変です。ドラゴンが出現しました」


 下級戦士が報せにきた。


「上級戦士を集めろ」


 慌ただしくなった。

 俺もジェフトについて行く。


 アルゴを二回りぐらい小さくしたドラゴンが城壁の外側に見えた。

 上級戦士達は手足を光らせ、ドラゴンに立ち向かっていく。

 上級戦士をうるさい蠅みたいに手足を使い叩きのめすドラゴン。

 どうした。

 ディッブの戦士の力はそんなものか。


 まあ、死人は出てないようだから、互角と言えば互角なんだろうけど。

 ドラゴンクラスだと上級戦士でも手こずるんだな。


 ドラゴンが打たれ強いってのもあるのだろうけど。

 ドラゴンがブレスを吐く。

 上級戦士達は手を光らせ突き出して盾にした。


 おー、ブレスを防いでる。


「同盟の力をお見せしましょう!!」


 俺は魔法で大声を出して呼び掛けた。


「【リフト】【必滅掌】」


 ドラゴンの頭の横に浮かび上がり、頭にそっと手の平を添えた。

 そして、魔力の衝撃波がドラゴンを襲う。

 ドラゴンは脳震盪を起こして倒れた。


「言葉は分かるか。分かったら、もうここには来るな」

「ガウウン」


 ドラゴンは言葉が分かったのか、逃げて行った。


「クナモニリニチカニラミ」

「ニトミやカ・カクニト・ミラカ・チミ・チリリニチミソイネ・コナカ・チ・ヒチトトチリ・トカチカイ・ラハ・トリニシイスめ」

「ニ・クチヒイ・カラ・カスチニミ・モラスイ」


 上級戦士達はしょげている。


「リッツ、何だって?」

「屈辱だと、これではスライダーの属国ではないかと、もっと鍛えねばと言っている」


「これで同盟破棄派はとうぶん黙るだろう」


 ジェフトがそう言った。


「魔王との間にはこんなに開きがあるのか」


 トレンも来て、驚愕した口調でそう言った。


「どっちかと言うとモンスター相手の方が得意だな。人間だと殺さないように手加減するのが難しい。ドラゴンも知能は高いから殺さないけど」

「手加減してあれか。貴殿の底はどこにある」

「強敵だと100万魔力で魔法を使っているけど、1億ぐらいは平気だろう。ただ地形が変わるからやらないけど」

「ラク・モン・キラシ」


 ミカカ語は分からないけど、トレンの表情をみるとそんな馬鹿なと言っているに違いない。


「ドラゴンよりディッブ人の議会を操作する方が大変だ。分からず屋が多過ぎる」

「議会は単純だ。武力を持つ者の発言力が強い」


 そうトレンが言った。


「それじゃ駄目なんだ。俺が壮健なうちはいいよ。戦えなくなったら、また騒ぎ始めるだろう。そんなのじゃ駄目だ。それに俺はディッブに何時までもいられない。俺が去ったら騒ぎ出すのだろうな」

「それは仕方ない」

「仕方ないじゃ、来た甲斐がない。成果を出さないと」

「成果なら出ているぞ。是非、腕を上げた陶芸を見てくれ」

「じゃあ、拝見するとしようか」


 トレンに案内されて、工房に出向く。

 そこには色とりどりの焼き物が並べられていた。

 青磁みたいなのもある。

 緑色や青や赤や白もある。

 少しみない間に進歩したな。

 ディッブ人の陶芸は窯を使わないから、偶然できたみたいな面白みがない。


 だが、特産品としては十分だ。


「見事だ」

「私も陶芸をやって奥義をひとつ会得した」


 そう言ってトレンが手を光らせる。


「何の技か分からないけど、おめでとう」

「だが、私の伸びしろはここまでのようだ。いくら陶芸に打ち込んでも進歩がない」

「じゃあ次は、鉄製品を作れ。砂鉄なら地中にいくらでもある」

「地面の土から鉄を集めるのか。それは奥義にもない技だな」

「魔力で干渉して、鉄製品が作れるはずだ」

「やってみよう」


 トレンが地面に手を置いた。

 そして、くず鉄みたいな物を作った。


「不純物が多いな。鉄だけを取り出すようにしないと」

「難しい。陶芸は土から形を作るだけで済んだのに」

「精進だ」

「ところでこれを鍛えるとどんな技が可能なのだ?」

「知らん。でも面白そうだろう」

「トナスイ。こういう考えが貴殿の強みなのだな」


 トレンは頷きそう言った。


「そうだ。魔法を作るのは楽しんでやっている」


 鉄製品ができたら特産品になるな。

 それもまた良いだろう。

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