第436話 とりあえずと、スパイ戦と、とりあえずめでたし

 とりあえずどうしよう。

 見知らぬ女と同じベッドで寝てた。

 ええと、昨夜は。

 研究に行き詰って夜中街に出た。


 ふらふらと夜の散歩をして。


 夜の街の寂しさもおつだが、賑やかな場所に行きたいなと思って。


 夜中開いている店と言ったら酒場ぐらいしかない。

 小腹も空いてたしちょうど良いと思ったんだ。


 酒場に入って注文して、そうだ女が相席良いですかと言って来た。

 この女だ。


 そんなに酒をかぶ飲みした記憶はない。

 エールを一杯だけだ。


 睡眠薬でも盛られた。

 偶然入った店でそれはないと思いたい。


 後をつけられてた?

 ハニートラップの一種か?


 あり得る話だ。

 俺の地位と財産を考えたら大ありだ。

 魔法の秘密を狙っているのかも知れない。


「おい、女起きろ、どこの工作員だ」


 女を小突いた。


「くっ、正体がばれたか。お前こそどこの国の者だ。なぜ寝ている間に拘束したりしない」


 工作員だというのは当たっているのか。

 だが、話がおかしい。


「俺はスライダーの王族だタイトと言う」

「あっ、これは失礼しました。王族の顔を忘れるなんて。すいません寝起きでぼうっとしてました。私、アヴァランシェ姫の部下で、影の者です。コードネームはシルビアです」


 えっと、お義母の部下ね。


「どうなっているんだ?」

「ある取引の情報がありまして、あの酒場でそれが行われると」

「で行ったと」

「敵に一服盛られたようです。タイト王子はそれに巻き込まれたと思われます」


「敵はシルビアを殺さなかったのだな」

「ええ、殺すと大事になるので嫌ったのでしょう」


 とりあえず宿を出るか。

 シルビアと宿を出てちょっとむかむかしてきた。

 敵国のスパイがやったんだよな。

 俺を撒き込みやがって。


 意趣返しをしてやりたい。

 取引は終わっている。

 もうスパイと取引相手はこの王都にいないかも知れない。

 捕まえるのは至難の業だ。


 せめて神秘魔法名が分かれば手の打ちようもある。

 分からないのだろうな。


「あー、タイト。昨日は無断外泊して。その隣の女は誰?」


 マイラに見つかった。

 レクティもいる。


「マイラさん、落ち着いて。隣の女は密偵の類ですよ」


「密偵だと色仕掛けもあるじゃない」

「ないですね。二人とも一服盛られたみたいですよ。睡眠薬の匂いがしますから」


 レクティは毒に関しては鋭いな。


「どんな睡眠薬? そこから手掛かりに犯人を捕まえたい」


 俺がそう言うとレクティはにっこりと笑った。


「その睡眠薬を扱う店なら私も懇意にしてます」


 そう言うとレクティはメモを書いて投げた。

 男が路地裏から駆けて来て、メモは素早く回収された。


 回収したのはレクティの部下だな。


 すぐに睡眠薬を買った客が分かった。

 伝言魔法で客を手配する。


 敵国スパイは捕まったらしい。

 シルビアは金一封と言いながらホクホク顔で帰って行った。


「タイト、昨晩はあの女と一緒だったんだよね。罰として私達と一緒に寝なさい」

「マイラはえっちなことをしてくるだろ許可できないな」


 まてよ。

 レクティに頼んで睡眠薬を手に入れてもらった。


 夕飯の時にマイラの飲み物にこっそり入れた。

 これで朝までぐっすりさ。

 とりあえず、なんとかなった。

 シルビアと同じ状況だからマイラも文句は言わないだろう。

 めでたしめでたしだ。

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