第128話 ドラゴンと、屈服と、アルゴ
ロックリザードの谷に到着した。
ロックリザードが歩いていない。
妙だな。
その時、空が陰ってドラゴンが目に映った。
豆粒ほどだったドラゴンの姿が段々と大きくなる。
「戦闘準備して待機するように伝えろ」
「了解しました」
ドラゴンが地上に降りて来た時にその大きさが分かった。
ジャンボジェットの何倍も大きい。
前世でもこれほど巨大な動く物は見た事がない。
静止している物なら、東京タワーほどの大きさだろうか。
推定300メートルだな。
兵士は誰もが、一言も発しない。
固唾をのんで推移を見守っている。
「あれをやったら魔王になれるかな?」
マイラの能天気な声。
ランシェとの食事は緊張してたのに、こういう場面では緊張しないのだな。
レクティとダイナの顔は緊張で張りつめている。
俺はどんな顔を今しているんだろう。
大きさに感動か。
恐れか。
畏れか。
何だろうな。
これをやらないと駄目なら仕方ない。
一度フルパワーの魔法を計算した事がある。
100万の魔力で撃つと580メートルの大きさだ。
もっともこの100万の魔力も外付けだから、いくらでも増やせる。
580メートルというと東京タワーの2倍弱。
このドラゴンもすっぽりと入る。
いっちょかましてみますか。
「【火球フルパワー】」
ドーム球場がすっぽり入る大きさの火球が出来あがって、動き始めた。
「ちょっと待ったぁ」
大音量で待ったが掛かった。
俺は魔法を消して、外付けの魔力の魔道具を取り換えた。
「ドラゴンが喋ったのか。おい、答えろ」
答えはない。
神秘魔法名を鑑定して魔法通信を送る。
『ドラゴンが喋ったのか。おい、答えろ』
「そうです。撃たないで。あんなの撃たれたら死にます」
『賢いんだな』
「長く生きてますから」
『どのくらいだ?』
「さあ、1万年ぐらいでしょうか」
『ここには何しに来た?』
「トカゲをつまみに」
『俺達とやるのか?』
突如ドラゴンがひっくり返って、大地が揺れる。
もうもうと土ぼこりが立った。
土ぼこりが治まると、ドラゴンが腹を見せているのが分かった。
「くははっ」
兵士から乾いた笑いが起こる。
『そうか、降参するんだな。俺達の後をゆっくりとついて来い』
「分かった」
俺達は進軍を開始した。
兵士の乗る浮かぶ板のスピードが徐々に上がる。
追いつかれると食われるとでも思っているのかな。
賢そうだからそれはないと思うけど。
「タイト様、おめでとうございます」
レクティがお祝いの言葉を述べる。
「何が?」
俺は思わず聞き返した。
「魔王就任でございます」
「うーん、あれは撃破というより、仲良くなったかな」
「そうですか。ではそういう事にしておきます」
「さすがタイトだね。魔王を屈服させちゃうなんて」
「Sランクの魔石を使うと、あのドラゴンの大きさの火球は出せる。マイラだって魔道具を使えば勝てるさ」
「それじゃ、Sランクのモンスター倒して、魔道具を作らないと」
「魔の森にいるかな。グリフォンでもBランクだし。アイアンゴーレムはAランクなんだけど、魔石は小さいんだよな。硬いから難度が高いってだけで」
「じゃあ、フェンリルとかだね。この森にいないか、後でドラゴンに聞いてみるよ」
そうだドラゴンに名前はあるのかな。
『名前はあるのか?』
「ない」
兵士が突然の大声に首をすくめる。
ないのか。
『じゃあ、今日からアルゴを名乗れ』
「アルゴ、気に入った」
アルゴの名前はアルゴリズムからとった。
漫画の主人公でアルゴというのは何回か見たから、悪い名前でもないだろう。
後ろを振り返って、アルゴを見る。
これじゃ、少し目立つな。
俺はアルゴに姿隠し魔法を使った。
兵士は安心したようだ。
移動速度が元に戻った。
姿が見えなくなっても、羽ばたきの風はびゅうびゅう吹いているがな。
オーガの領域と、オークの領域を通過したが、モンスターには一匹も出会わなかった。
分かるよ。
ドラゴンの匂いがしたら、そりゃ隠れるよね。
俺も魔法がなかったら隠れている。
隠れる場所が無かったら、必死で穴を掘っているに違いない。
オーク共もそうしているのだろうな。
光景が目に浮かぶ。
兵士は慣れたのか、後ろを振り返る回数が少なくなった。
風は相変わらずだが。
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