第125話 母さんの夢と、懐かしい街と、戦闘

Side:ノッチ


 早馬を何頭も乗り潰して、トンネルの出口に駆け付けた。

 仮面の男が置いていった、身体強化の魔道具がなければ、この強行軍は無理だったと思う。


 僕も作ってみたかったが、仮面の男が持って来た資料には、身体強化の魔道具を説明した物はない。

 秘匿技術なのだろう。


 兵士は既に陣を構えている。

 僕が到着したので、地中爆弾を設置し始めるようだ。

 無理をしたので寝る事にする。

 テントの外は兵士の声で騒がしい。

 でも、疲れていたのだと思う。

 すぐに眠りに就くと、久しぶりに母さんの夢をみた。


 悲し気な目でぼくを見ている。

 必ず復讐するからと僕が言うと更に母さんの顔が歪んだ。

 違うんだ、これは必要な事なんだ。

 そう大声を出して目が覚めた。

 最悪の気分だ。

 夢とはいえ母さんを悲しませてしまった。


「戦況はどうなっている」

「はっ、進軍は順調です。まもなく接敵すると思われます」

「頼んだぞ。みなが頼りだ」


 僕はトンネルを通って、バリアブルに出る。

 何年も経ったわけじゃないのに、途中通る街はどれも懐かしい気がした。

 領都に入って、バリアブル城に駆け付けた。


「ニオブや。よくぞ戻った」


 タンタルが僕を出迎える。


「計画は順調ですか」

「ああ、問題ない」


 タンタルと一緒に司令部に入る。


「フェライト領の軍勢と戦闘に入りました。我が方の軍の損害は軽微です」


 バリアブルの戦闘用魔道具は、国軍に納入していた実績があるだけに性能は申し分ない。

 地方領主に手間取っているようでは国軍に勝てない。


「ダストコア領、戦闘に入りました」

「タクタイル領、戦闘に入りました」

「オルタネイト領、戦闘に入りました」


 次々に戦闘の報告が入る。


「フェライト領、先遣隊を撃破しました」


 次々に戦果の報告が入る。


「オルタネイト領、苦戦しています。援軍要請ですが、どうします?」

「持久戦に持ち込めと将軍に伝えろ。地中爆弾で陣をしけば、しばらくは持ちこたえられるだろう」


 タンタルが指示を出す。

 4箇所のうち、オルタネイト領だけが苦戦か。

 想定よりだいぶいい。

 想定では2箇所が苦戦して、敵を撃破した残りの部隊を応援に回す事になっている。

 オルタネイト領も4倍の敵に攻められれば落ちるだろう。


 地図に置かれた敵を示す赤色の駒に、次々にバツが書かれる。

 もはや、時間の問題だな。

 ここから、王都への道のりは遠いが、街道があるので進軍は楽だ。

 オルタネイト領軍を撃破したら、軍をまとめて一直線に王都を目指す。


 戦闘が始まって半日ぐらい経った時に、僕たちの前に鎧を着けた男性が運ばれて来た、

 腕と足には枷が嵌っている。


「バリアブル公爵、正気ですか。今まで我が領と敵対した事などないではありませんか」

「ふん、王都に攻め上るには貴様らがじゃまなのだ」


「王位を簒奪などできない。絶対に成功しない」

「それはどうかな。我が軍が王都に到着すれば、全魔導師が反乱に加担する事になっておる」

「それを聞かせたという事は生かすつもりはないという事ですか。貴様なぞ呪われろ。さあ殺せ」


「おい」


 タンタルが首を斬るゼスチャーをする。

 兵士が首を落とした。

 貴族が一人死んだと思うと笑みがこぼれる。


 フェライト、ダストコア、タクタイルの領主はみんな連れて来られ首を刎ねられた。

 残るはオルタネイトだけだ。


「よし、全兵力でオルタネイトを蹂躙しろ」

「はい、軍をまとめるのに今日一杯かかります。開戦は明日になります」

「いいだろう。そのぐらいは待てる。3領の領主には恨みはなかったが、オルタネイト伯はわしを裏切った。拷問して殺してくれよう」


 楽勝だな。

 明日に備えて休む事にする。


 そして、夜中に叩き起こされた。

 夜中にオルタネイトが奇襲を掛けてきたらしい。

 地中爆弾は牛の大群で潰された。

 くそう、敵もなかなかやる。

 たしかに家畜の群れを突っ込ませれば解除は可能だ。

 司令部に行くと。


「牛に薬を使ったようです。それと奇襲ですが殺さないように攻撃してます。手や足を狙っているようです」


 どんな意図があるんだ。


「医薬品が足りません。治療師の数も。兵士の中には帰りたいという者も出てきているようです」

「逃げた兵士は殺せ」

「父上、見逃してやってはいかがでしょう。殺すのに無駄な魔法や体力を使うのは勿体ない。臆病な兵士はこれからも逃げる可能性があります。軍を精鋭だけにする良い機会ではないでしょうか」

「うむ、お前が言うのなら。たしかに味方を撃つのは士気が下がる」


 平民は殺したくない。

 味方もだけど、敵であろうとも。

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