第124話 卒業式と、ノッチと、嫌な予感

 今日の学園は卒業式だ。

 知り合いで卒業する人はいないが、出る事にした。

 まさかと思うが、ノッチが現れるかもと思ったのだ。


 めんどくさいので、入口近くの席に陣取り、入って行く人間全てに腕スキャンを掛ける。

 腕ばかり見ていると飽きる。

 そして、集中力が無くなった時、腕に鳥の痣が。

 ノッチだ。

 俺は辺りを見回す。


 俺と同年代の人間は偽ニオブしかいない。

 偽ニオブに腕スキャンを掛ける。

 あった、鳥の形の痣だ。


 偽ニオブがノッチだったのか。

 考えてもみなかった。


 だが、なぜ?


 ノッチの背景を調べる必要があるな。

 バリアブル領からは魔道具工房の職人が多数逃げてきている。

 その中にノッチの事を知っている人間がいるかも知れない。


「レクティ、悪いが、ノッチの事を知っている人間を探してくれ。至急だ」

「分かりました。重要な事なのですね」


 レクティが出て行く。

 偽ニオブ、いやノッチの姿を探すといつの間にか消えていた。

 中座したのか。

 嫌な予感がする。


 来賓としてきているランシェの元に人が近寄って耳元で何か囁く。

 嫌な予感はますます強くなる。


 ランシェは辺りを見回すと、俺と目を合わせた。

 そして来賓席から離れて俺の所に来る。


「バリアブルが反乱を起こしたのである。お前も来い」


 嫌な予感は当たった。

 ノッチは今頃バリアブルに向かったな。


 決着は現地で付けないといけないようだ。

 マイラとダイナを連れて王宮に行く。


 作戦本部が出来上がっていた。

 王が一番上座に座る。


「影はどうしたのだ。反乱の予兆は聞いていたが、時期を特定できなかったのか。トンネル工事の情報を掴めないとは嘆かわしい」

「すみません」


 ランシェが謝る。


「まあよい。軍備は整っておるのだろうな」

「はい、滞りなく」


 将軍と思わしき人物がそう答えた。


「では進軍を開始せよ」


 作戦本部が慌ただしくなった。

 軍人が何人も出入りして状況を報告する。


 俺の出る幕は今のところないな。

 そう思っていたら、レクティがやって来た。

 早いな、もうノッチの情報が入ったのか。


「まとめるのに手間が掛かりました。これが今分かっている情報です」


 出された資料を見る。

 ノッチの母はメイドをやっていたようだ。

 それも王都のバリアブル邸でだ。


 タンタルに見初められて、ノッチを身ごもったとある。

 という事はノッチと俺は異母兄弟という事か。

 偽ニオブとノッチの顔は似ているらしい。

 そりゃ兄弟だもんな。


 偽ニオブを見たノッチの知り合いが、ノッチは王都にいると言ったわけだ。

 資料にはサイラの事もあった。

 サイラも貴族の血筋らしい。

 これは予想してた。

 魔力量が多いからな。

 幸いにしてタンタルの子供ではないようだ。

 タンタルの子供だったら、ちょっとややこしい事になってたかも知れない。

 良かったよ。


「レクティは予想してたんだな」

「ノッチ探しを依頼された時に調べ始めました。タンタルの子供だと分かったのは最近ですが」


 レクティは有能だな。

 ランシェに是非推薦したい。

 でもひも付きは不味いんだったか。


 どうやら、俺はバリアブルと無関係を決め込む事は出来ないようだ。

 ノッチとどんな形であろうとも決着をつけないといけない。

 タンタルともな。


 ランシェのそばに行く。


「俺は決着をつけないといけないらしい」

「そうであるか。何やら決意したのであるな。男の顔をしておる。気をつけるのである」


 ランシェは書きつけを書いて持って行くが良いと俺に渡した。

 紙にはこの者に王族としての権利を認めるとある。

 成人すると手に入る権利が使えるらしい。


「ところで、レクティはどうやって中に入った?」

「オルタネイト領の情報を持って来たと言ってですわ」

「ああ、オルタネイト領はバリアブル領の隣だからな。心配だな」

「ええ、ですが父は既に現地に入って指揮を執っています。心配は要らないと思います」

「あの人なら、負けないような気がする」


 よし、超特急でバリアブルに行くとしよう。

 反乱が早く治めないと。

 お前、何やってるんだと、ノッチはとにかく一発殴る。

 そしてサイラの元に連れて行こう。

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