閑話 KAC2023で出された7のお題

第359話 本屋と、回復呪文と、夢

 ある日、マイラを連れて街へ買い物に出た。


「ねぇ、タイト」


 マイラがニコニコ顔で話し掛けてきた。


「何だい」

「あそこ、もめている。楽しそうな気配」


 見るとゴザを広げた露店商が、冒険者の男となにやら言い合っている。


「さぁ、品物を全部買ってやる。ただしツケでな」

「ツケはお断りだ」

「ほう、腕の一本が惜しくないらしいな」


「みなさん、この男は武器を強奪しようとしてます。その武器が、今度はみなさんに向かわないと、誰が断言できるでしょう」


 露店商が扱っているのは、どう見ても本だ。

 どういう事だろう。


「ぐひゃひゃ、誰もお前に加勢したりはしてくれないぞ。屁理屈なんかに力なんざない」


 下品に笑って、冒険者が言った。


「知識は力であり武器だ。生活を守る盾になったり、悪漢を退治する剣になったりするんだ。たとえ刺し違えても本は守る」


 そうだな。

 俺のプログラム知識がまさにそれだ。

 効率の良い呪文でできた魔道具を作って、生活を潤わせている。

 敵は攻撃魔法で、退治している。

 その考えには賛同できる。


「マイラ、助けてやってくれ」

「そう言うと思った」


 マイラが駆け出して、野次馬の人混みをすり抜けるように進み、冒険者のケツを蹴り飛ばした。


「何しやがる」


 マイラは冒険者の死角に入っている。

 また、ケツを蹴飛ばした。


「姿を見せろ」


 マイラは常に死角に入っている。

 冒険者は気味が悪くなったのか逃げ出した。


「ありがとう」

「どういたしまして。礼ならタイトに言って、彼が助けるように言ったから」

「ありがとう」

「俺はマイラが首を突っ込みたがっている感じがしたから。それと知識は武器という考えは何となく共感したよ」


「ロムです。あなたとは友達になれそうです」

「友達ならタメ口で話せ」

「わかった。マイラは強いね。どの流派?」

「我流よ。しいて言うなら、死角一撃流。死角からずばっとが、最強だと思っている」


「ロムは本屋みたいだな。そこにあるモンスター大全が気に入った。売ってくれないか」

「その知識を何に使う?」

「モンスターの被害から民を救う。そして、モンスターを狩り過ぎないように生態系の維持に努める」

「さすが親友。モンスターの保護まで考えているとは。気に入ったよ。金貨1枚のところ銀貨80枚で売ってやる」

「金貨1枚で良いよ」


「私はあれが欲しいな。恋文指南」

「まいど。銀貨20枚だ」

「マイラには何に使うか聞かないんだ」

「そんな野暮は言わないよ」


 ロムが店を畳むまで、3人でお喋りした。


「俺は世界一の本を手に入れる。そして、それを世界一の人物に売るんだ」

「なら俺は世界一の魔法使いだ」

「私は世界一のお嫁さん」


「よし、この出会いに掛けて誓おう」


 3人で誓いの盃を飲んだ。

 何となく性格が災いしてロムに危機が訪れる予感がした。


 こんな感じの魔法を使う事にした。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>


void main(void)

{

 system("copy スラモ.body スラモ.bback"); /*ロムの体のバックアップ情報を作る*/

}


 『スラモ』とはロムの神秘魔法名だ。

 呼び名だと重複があるが、神秘魔法名には重複がない。

 この知識だけでも魔法使いとして一流だ。

 とにかくバックアップを作った。


 ロムは背負子に20冊余りの本とゴザを括りつけ去って行った。


 そして、一年の月日が経ち。

 俺はロムの事など忘れていた。


「よう、親友。探したぜ」


 街を歩いていると、ボロボロの状態のロムが現れて倒れた。

 切り傷、火傷、どう見ても普通の怪我じゃない。


 回復しないと。

 俺はスペルブックを開いて無詠唱した。

 スペルブックには以下の魔法が書いてある。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>


void main(void)

{

 system("copy スラモ.bback スラモ.body"); /*ロムのバックアップから体を再構成する*/

}


 この魔法を実行した。

 完全回復する魔法だが、ロムは治らない。

 他の人には同じ方法で上手くいったのに。

 なぜだ。

 知識は力じゃなかったのか。

 運命には勝てないのか。


「もう俺は長くない。もう死んでいる感覚さえある」

「そんな事を言うなよ」

「貴族のアスロンがお前を亡き者にしよ……」


 ロムがこと切れた。

 アスロンを始末するのは後だ。

 俺のスペルブックをロムの懐に入れた。


「これは最高の本だ。世界制覇出来る知識だと言っても良い。天国で世界一の誰かに売れよ」

「がはっ」


 ロムが意識を取り戻した。

 傷も治ったようだ。


「ロム、しっかりしろ」


 俺はロムを揺さぶった。


「天国の神様に嫌われちまったらしい」

「みたいだな」


 知識は力だ。

 その集大成の本は素晴らしい。

 本屋であるロムは尊敬できる奴だ。

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