第86話 布の人形と、殺し合いと、折れた死亡フラグ

 マイラと一緒に街へ出た。

 魔法で板を浮かべて、紐で腰と繋ぐ。

 荷物を載せる為だ。


 土産物屋は色とりどりのお土産が陳列されていた。

 俺は布の人形を手に取った。


「すいません。これって染料は毒じゃないですよね」

「うちのは赤ん坊がしゃぶっても大丈夫さ」

「なら安心だな」

「エレクに買うの?」

「そうだよ。気に入るかは分からないから、たくさん買おう」


 人形を後ろからついて来る板に載せる。


 次は木材店だな。

 木材店の中に入ると良い木の匂いがした。


「猫がかじっても平気な木材はありますか?」

「それは口にいれても平気かって事か?」

「ええ」

「それだとこの辺りだな。この木はおしゃぶりにも使われている」


 木材を仕入れて浮かぶ板に積む。


 後は釘だな。


 突然、金属音がした。

 マイラがフードの人物の短剣を受け止めている。

 敵襲か。


「手を出さないで」


 俺がスペルブックを開いたのを見てマイラが言った。

 敵とマイラが何度も切り結び刃から火花が散る。

 マイラが腰に着けた魔道具に触った。

 敵の耳元で爆竹が炸裂。

 隙が出来た敵はマイラに転がされ、首に刃物を突き付けられた。


「殺しなさい」

「いいえ、タイトに良く考えるように言われた」

「何を?」

「あなたが死んだら悲しむ者がいる」

「私の何を知ってるっていうの」


「エレクが好きでしょう。ダイナ。エレクもあなたの事が好き」

「えっ、ダイナさんだったのか」


「ばれてしまったようね。エレクが悲しむか。私にも悲しんでくれる存在が出来たのね。私もエレクが死んだら悲しい。そういう存在が出来たら殺せと命じられてきた。でも私にエレクは殺せない」


「じゃあ、裏切れば、掟みたいな物も関係ないだろ」


 俺はそう提案した。


「そうね。そうするしかないようね」

「ところで依頼主は誰?」

「言えないわ。これは私の仕事に対する流儀の問題」


「言えないのなら、無理には聞かない。王族に紹介状を書くから自首しろ。たぶん暗部に回されると思う。殺しはしないような部署に回すように書いておくから」

「自首する前にやらないといけない事が一つあるわ」


 ダイナがそう言ってから黙る。

 訳ありの用事があるみたいだ。


「聞かない方がいいみたいだね」

「ええ、この件は目をつぶって」


 マイラがダイナから離れる。

 離れたが油断なく構えている。


「じゃ、縁があったら」


 ダイナはゆっくりと起き上がり、手をひらひらさせてから、去って行った。


「驚いたなぁ。ダイナさんが殺し屋だったなんて」

「最初から知ってた。隠すのが上手いけど、出会った時に殺気が出てた」

「そう、気づかなかったよ。マイラありがと。護衛しててくれたんだね」

「役目だから」


 夕日が眩しい。

 さあ、帰ろう。


 寮に帰り、キャットタワーを作り始めた。

 もう少しで出来上がるという所で扉がノックされた。


「どうぞ」


 すっきりした顔で入ってきたのはダイナだった。


「ケリをつけてきた」

「じゃ、紹介状」


 俺は書いておいたランシェ宛の紹介状を渡した。


「エレクともしばらくお別れね」

「またすぐに会えるさ」

「そうね」


 エレクは布の人形に夢中で、噛みつき引き裂いている。

 ダイナはエレクを抱き上げると体を撫で始めた。

 ダイナがほほ笑んでいた。

 こうして猫を可愛がっているのを見ると殺し屋には見えないな。

 今は元殺し屋か。


「元気でね」

「マイラもね。あなたは私が会った中で一番の使い手だと思う」

「ダイナも強敵だった。でもあの時のダイナは守る物がなかったから」

「ええ、そうね。でも今は違うわ。エレクだけは守りたい」

「なら、死ぬ事もなさそうね」

「ええ、死なないわ」


「そういう会話は死亡フラグだぞ」

「それって何?」

「不吉だって事さ。まあ、この戦いが終わったら結婚するんだ程じゃないけど」


「ふふふ、それは死ぬわね」

「そうね、あはは」


 ダイナとマイラが笑い始めた。

 死亡フラグは笑い事じゃないんだけどな。

 まあ、いいか。

 笑った事で死亡フラグが折れた気がする。

 たぶん大丈夫だろう。

 そんな気がした。

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