第85話 転売と、盗賊行為と、政略結婚

Side:偽ニオブ


「オルタネイト商会の魔道具を買えるだけ買いなさい」

「はい、坊ちゃま」


 私は使用人に金を渡して仕入れに行かせた。


「いるのでしょう?」

「よくお分かりで」


 仮面の男が現れた。


「買い漁った魔道具を田舎で転売するのです」

「よろしいですとも。配下の者にやらせます」

「その金で兵と武器を集めるのです。出来ますよね」

「ええ、もちろん」


 そして数か月。


「転売の旨味がなくなりました。どうします?」


 仮面の男に聞かれた。

 大丈夫、想定内だ。


「盗賊団を組織して、オルタネイト商会の荷馬車を襲いましょう。ですが、くれぐれも人は殺さないように」

「難しい依頼ですが、まあなんとかですね」


「その奪った魔道具を転売の魔道具と混ぜて売るのです。こうすれば旨味がでるでしょう。帳簿の数が合わないですが、それぐらいの偽装は容易いはずです」

「ですね」


「人を殺さないのは、オルタネイト商会が輸送しなくなるのを恐れて、ですかね」

「それもあります。ですが、輸送しなくなればこっちの物。転売が機能するでしょう。人を殺さないのは、平民を殺すのが嫌なだけです。殺すと嫌な貴族になったみたいですから」

「要望には応えますよ。それが仕事ですから」


「兵の集まりはどうです?」

「着々と進んでますよ。大半は仕事を失ったバリアブルの領民ですが」


「心苦しいけど、我慢してもらいましょう。貴族をそして王族を打倒する為の辛抱です」

「盗賊が討伐されたら、どうするつもりで」


「どうもしません。別の稼ぎ口を見つけるだけです」

「ですよね。盗賊などいくら死んでも構わない」

「ええ、その通りです」


 ふぅ、慣れない事は疲れる。

 魔道具工房で働いていた日々が懐かしい。

 あの子には悪い事をしたな。

 せっかく仲良くなって友達になったのに、お別れも言わずに姿を消してしまって。


Side:オルタネイト伯爵


「また、馬車が襲われました。人員は無事ですが、品物は全部、持ち去らわれたようです」


 部下から報告を受け取りました。


「ふむ、困りましたね」


「お父様、私が調べましょうか」

「頼めるかい」


 娘のアルミナが部下を引き連れて出て行った。

 とりあえず出来るのは馬車に護衛をつける事だけですかね。


 そして。


「駄目です。盗賊に腕の良い魔法使いの用心棒がついているらしくて、どうにもなりません」

「ううむ」


 アルミナが帰って来たようだ。


「お父様、盗賊のアジトは見つけましたが、魔法使いの尻尾は掴めませんでした。襲撃現場からかき消すように居なくなったのです」

「魔導師の暗殺集団だろうか。あれはタイト君が潰したし。しばらく再建は難しいはずだ」

「品物も魔法使いと一緒に消えています」

「そちらは収納魔法を使ったのだろう。となると……空間魔法使いの仕業か。まさかな。伝説だぞ」


「そんなに難しいのですか。空間魔法とやらは」

「この空間と重なって別の空間があるのを想像できるかい」

「いいえ」


「そうだな。空間に穴を開けたりなんてのも想像できない」

「ですね。同感です」


 うむ、大事になった。

 彼に借りを作り過ぎるのはよろしくないが、頼むとしよう。


 しばらくして、お目当てのタイト君が訪ねてきた。


「暗殺部隊の件の借りを返してないのに、頼み事をするのは恐縮だが、困っているんだよ」

「どんな頼みですか?」

「魔道具を積んだ荷馬車が襲われている。空間魔法使いの仕業らしい」


「空間魔法には興味があります。ここはドライにお金で清算しましょう。そして、その金で流民を救いましょう」

「金でなんとかなるのならこちらも有難い」


 タイト君に恐れはないのだろうか。

 伝説の空間魔法使いだぞ。

 やはり彼は魔王の器という事か。


 私には考えられない境地だ。

 彼との絆は大切にしたい。

 アルミナを娶ってもらう事も考えるべきか。

 アルミナはなんて言うだろうか。

 あの子の事だから反対はしないのだろうな。

 だが、ニオブの一件で少し負い目がある。

 あまり負担は掛けたくない。

 アルミナの気乗りがしないようだったら、親戚の誰かを養女にもらって、あてがうか。

 そうしてみよう。

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