第104話 侵入と、反乱の気配と、進入路偵察計画

 街道を封鎖してたのはバリアブルの兵士だった。

 やっぱりな。

 そうだと思ったよ。

 俺達は姿隠しを使って、空を飛びこっそりと侵入した。


 サイラの暮らしている街に着いた。

 街の様子は平穏というより他に言いようのない感じだった。

 いや、寂れた商店街と言った感じか。

 店のほとんどは閉まっている。

 こんなに人がいないなんて。


 サイラの家のドアを叩く。


「あら、こんにちは」


 ドアを開けて迎えてくれたのは人の好さそうな中年の女性だった。

 この人がサイラの母親だな。


「サイラの友達でタイトって言います」

「サイラ、お友達が見えたわよ」


「いらっしゃい。さあ入って」


 奥からサイラが出てきて、俺達を中に入れてくれた。


「みんな、久しぶり。今、街道は封鎖されているから、会いに行けないし。どうしようかと思ってたところ」

「状況は悪そうだね」


「ええ、街の人のほとんどは兵士になってしまったわ。そうでもしないと食べていけないから」

「サイラの所は大丈夫?」

「うちは魔道具を扱っているから、目こぼしされているわ。王都とオルタネイトに仕入れに行けなくて父さんはこぼしていたけど。バリアブルの工房との付き合いも沢山あるから」


「サイラが元気そうでよかった」


 とマイラ。


「マイラもね。でもどうやってここまで来たの」

「空を飛んで来たんだよ。今度マイラも乗せてあげる。ねぇ、タイト良いでしょ」

「ああ、もちろん」


「これ、つまらない物ですが。みなさんで召し上がって下さい」


 レクティがお土産を渡した。

 しまった俺はそんなの考えてなかった。

 空を飛ばす板の設計が楽しくってすっかり忘れてたよ。


「ご丁寧にどうも」

「サイラも接客が板について来たね」

「まあね」


「むっ、猫の気配」

「ダイナ、猫を探しに行ってもいいぞ」

「では遠慮なく」


 ダイナが部屋を出て行った。


「泊まっていけるのよね?」

「宿を取ろうかと思ったが、このご時世で旅人っていうのは変に思われるか」

「そうね。おかしいと思う」


「じゃ、お言葉に甘えるよ。その代わり店の在庫を増やしてやるよ。クラッド商会の魔道具なら作れるから」

「お父さんが喜ぶと思う」


「やった、サイラとお泊りは初めて」

「マイラ、あんまりはしゃいで迷惑かけるなよ」

「分かっている」

「私はサイラのお父さんと商談してまいります」


 そうレクティが言って席を立った。


「好きにしていいよ」


 うーん、俺は考え込んだ。

 マイラとサイラがお喋りしているのも耳に入らない。

 徴兵と税率を上げる。

 こういう行為は戦争の前触れだ。


 見る限りタンタルは反乱を起こそうとしているとしか思えない。

 だが、他の場所をどうやって攻める。


 たぶん、秘策を持っているんだろう。

 とりあえずは、税を釣り上げた証拠と、ここを攻めるとしたらどうするかだな。

 この2つをどうにかしよう。


 税の証拠は役所に姿隠しで忍び込めばいいだろう。

 問題はここを攻める手立てだな。


 バリアブルの地形を思い出す。

 ほとんど盆地だ。

 ただ、魔の森と呼ばれている所の方向に山はない。

 魔の森はモンスターの宝庫で、ここで産出する魔石が、魔道具に加工されて出荷されていた。


「ねぇタイト。聞いてるの!」


 マイラの少し怒った声に思考を辞めた。


「悪い、考え事をしてた」

「あのね。サイラがモンスターを狩ってみたいんだって」

「それだ」


 俺はポンと手を打った。


「何がそれなのよ」

「ここを攻めるとしたら、魔の森から攻めるしかない。それの調査の口実が出来た。サイラ、依頼を出すんだ。モンスター退治見物と魔石の確保のな。それなら不自然じゃない」

「じゃ、結局、行くのね。依頼って形にするって事ね」

「そういう事」


 魔の森から攻めるには道がいる。

 魔法で作る事が出来るが、それは今からやらなくても良いだろう。

 今回は道を作る場所の下見だな。

 湖とか川とかあると色々と面倒だ。

 あらかじめ分かっていれば、対策は立てられる。

 下見しない事には進まない。

 問題は魔の森の深くは前人未踏だと言う事だ。

 だが、何とかなるだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る