第131話 顛末と、義足と、覚悟

Side:ノッチ

 タンタルが死んで、反乱は失敗に終わった。

 物資がバリアブルに蓄積されていたから、そこを抑えられ反乱軍は瓦解したみたいだ。

 アヴァランシェという姫様にそう聞いた。


 現在、バリアブル領はソレノイド、インダクタ、アクチュエータの3領に分割されている。

 全て伯爵領だ。


 僕は反乱が失敗した後、アヴァランシェに連れて行かれ裁判を受けた。

 地中爆弾を作った罪は無罪。

 なぜかというと魔道具職人が武器を作るのは当然の事で、それを罰していたら限がないそうなのだ。

 罰するのなら剣や鎧を作った者にも罪がある事になる。


 反乱の首謀者はタンタルで未成年の僕の罪は問えないそうだ。

 裁判中にアヴァランシェがこそっと耳打ちした。

 タイトが怖いのであると。

 魔王のドラゴンを従えたタイトには、敵う者がいないらしい。

 仮に暗殺したとして、その時に魔王のドラゴンがどういう行動をとるか予測ができないみたいだ。


 人語を喋ると言うし、賢いから、忠犬みたいな行動をとるかも知れないと。

 そんな訳で僕は無罪放免されて、サイラの元に戻った。


 現在、サイラの両親の店はソレノイド領の領都にある。

 僕はその店のお得意様の魔道具工房に見習いとして勤めている。


「ノッチ、お弁当もって来たよ」

「ありがとう」


 サイラは毎日お弁当を届けてくれる。


「ノッチ、自動扉の注文が入ったぞ。もう見習い卒業だな」

「まだまだです。僕はもっと人の心を知らないと、いけないみたいですから」


「それで義足を作っているか」

「ええ、そんなところです」


 自動扉の魔道具を作ってから、義足を作り始める。

 義足は全てオーダーメイドだ。


「少し短くしてみました。感想を聞かせて下さい」

「うん、長さは良いんだけど、足に当たって少し痛い」

「柔らかい素材があれば良いんだけど、布と綿じゃ駄目なのかぁ」


「浮かしてみたら良いんじゃない」


 見ていたサイラがそんな事を言い始めた。


「どこかで見た事があるのか。そんな技術があるなんて。知ってるなら教えて欲しい」

「タイトがね。板を浮かして飛んでいたのよ」

「そうか、彼がね。天才だからな。手紙を書いてみるよ」


「私からも口添えしておくわ」


 何日か経って、タイトから手紙が届いた。

 物は重力で地面に落ちると。

 なるほどね。

 落ちる力を使えば、浮かす事もできるらしい。

 僕はその場で何度もジャンプしたり、物を落としたりした。


 なるほど。

 今まで意識してなかった。

 落ちる力が作用してたんだな。

 これを利用すれば、自動扉も、もっと良い物にできる。


 自動蛇口の事も書いてあった。

 トイレに設置すれば良いって。

 なるほど参考になる。


 ふふふっ。

 笑みがこぼれる。


「どうしたの笑って」


 僕はサイラの家に居候していて、サイラは僕の部屋によくやって来る。


「僕なんか、まだまだって事さ」

「ノッチは立派な職人よ」


「立派じゃない。人殺しの道具を作ってしまった」

「こう考えたら、どうかしら。森はね、何十年に一回火事になるのよ。動物も植物も被害に遭うわ。そして、その灰で再生するわ。あなたは、たまたま火事を起こしたのよ。必要な事だったのよ」


「そんな気持ちにはなれないな。僕が引き起こした事で何人もが不幸になった」

「じゃあ、今は再生の時だと考えれば良いと思う。あなたが再生を助けるのよ。芽吹かせるのよ」

「分かったよ。なるべくそうなるようにする。自動扉と自動蛇口の利益は不幸になった人にお見舞い金として贈るよ。再生の芽吹きがくるように願って」

「私も協力する」


 魔力を探知できるという事はモンスター探しもできるかも。

 まず、ギルドの職員が討伐予定のモンスターを偵察して、魔力を魔道具に登録する。

 その魔道具を討伐する冒険者に渡して魔力を元に追跡するのはどうかな。


 僕の能力は人殺し以外にも使える。

 なぜ僕は真っ先にあんな物を、作ってしまったんだろうか。


 悔やんでも悔やみきれない。

 きっといい気になってたんだな。

 見習いだった僕が画期的な魔道具を作れたと思って。


 武器を作る職人が、売る人を選ぶなんて話も聞く。

 僕は覚悟が足りなかったんだ。

 悪用した人が出たら、諫めてその人から武器を取り返すというような考えを持たないと。

 自動扉も悪人の入口隠しに使われるかも知れない。

 売る人を良く観察して、そういう事のないようにしよう。


 追跡の魔道具も良く考えたら、誘拐するのに使われたりするかも知れない。

 人をもっと見ないと駄目だ。

 僕はまだまだだ。

 しばらくは見習いでやっていこう。

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