第132話 パレードと、マイラとの婚約と、ウィルス

「魔王タイト、万歳」


 沿道を埋め尽くす人また人。

 どうしてこうなった。

 分かっている。

 政情が不安定なので、英雄がほしいという事はな。

 ラジオがあると情報が広まるのも早い。

 戦況は逐一放送されていた。

 反乱の終わりというか、区切りをつけたいのだろう。


 流民問題もある。

 バリアブルの魔道具産業の衰退はどうしようもない。


 バリアブルを再建するのは、誰かがなんとかするんだろうな。

 俺はそんな事をするのは嫌だ。

 嫌なのは言うまでもない事だが、出来る自信などもない。

 協力できるのは、人の色々な不満をそらすパレードの道化になるだけだ。


「ほらタイト、笑顔で手を振って」


 他人事だと思って、馬車の向かいに座っているマイラがそう言う。

 俺は馬車の窓から手を出して振った。

 歓声が上がる。


「タイト様はまだこの境遇に慣れてないようですね」


 と言う、やはり向かいに座っているレクティ。


「もう少し年齢を上げて頂ければ、貫禄も付くと思います」


 ゆっくり進む馬車の脇で、いつものメイド姿をして歩いているダイナが言う。


 本当はおも研のメンバーを全員連れて来たかったが、活躍してないし関係ないのでと、レクティにたしなめられた。

 セレンは俺達と一緒に歩きたかったらしい。

 最後までレクティに交渉していた。


 パレードは王宮の正門まで続き、開け放たれた門から堂々と王宮に入った。

 正門が開けられるのは30年ぶりらしい。

 俺は控室を借りて、鬱陶しいきらびやかな衣服を、制服に着替えた。

 ふぅ、こんなの柄じゃない。


 控室を出て、ランシェの執務室に入る。

 ランシェはやっぱり書類と格闘してた。


「よく来たのである。楽にしたまえ。お茶を淹れてさしあげろ」


 ふかふかのソファーにマイラとレクティに挟まれて座る。

 二人とも妙に大人しい。

 侍従らしき人がワゴンにティセットを載せて押して来た。


「良く出来た息子よな。お陰で助かっている」


 ランシェが仕事を辞めて、向かいに座った。


「何の事?」

「反乱の鎮圧の事よ。本拠地の制圧がなければ被害がもっと多かったのである」

「ああ、あれね。できそうだからやってみた」


「出来そうだからで、魔王を従えられてはたまらんのである」

「それより、バリアブル家はどうなるの?」

「そなたに継がせてはという意見も出たのであるが、改易して3つに分割する事になったのである」

「色んな思惑がありそうだね」


「そなたに軍勢を持たせたくない輩が多くてのう。分かるであろ」


 俺が反乱する可能性や、トンネルが出来て便利になって、あそこの利用価値が上がったりした事が関係あるのかな。


「まあ、分かるよ」


「そなたは、これからどうするのであるか?」

「今まで通り学園に通うけど。その後は知らないな」


「実に頭の痛い問題であるな。国の重要ポストは埋まっておる。そなたに権力を持たせるのを反対する者は多いのである」

「そんなの要らないよ」


「それに魔王認定もである。魔王を討伐していないので、認定する必要はないという声も大きい。ただ、それを告げる勇気もないのである。実に嘆かわしい」

「認定も要らないな」


「助かるのである。わらわは大丈夫だと思ったのであるが、恐れている者が多くてのう。で褒美は何が良い?」

「マイラを婚約者に」

「そうであるか。頭が痛いが、わらわが責任もって外野を黙らせようぞ」


「やった」

「マイラに並ばれてしまいましたわ。勝ち目が薄くなりましたが、挽回は可能だと考えます」


「二人ぐらい娶ってやってはどうであるか?」

「いくらランシェでもそれは」

「王族なら珍しくもないのである」


 そうなんだろうけど。

 日本人としては譲れない。

 だいたい、奥さんが複数いると家庭がギクシャクするだろ。

 家庭が戦場なんてのは嫌だ。


「こればかりは譲れない」


 そう決意表明して、俺は王宮を後にした。


 後日、マイラの婚約者認定だけでなく、褒美に勲章とお金が贈られてきた。

 俺はこれからどうするべきなのだろうか。

 領主になるのは面倒だ。

 国の重要ポストも要らない。

 金は腐るほど持っている。


 田舎に屋敷を構えて静かに暮らすべきだろうか。

 それもいいかも知れない。


 俺は魔法の手引書を日本語で書き始めた。

 今までの知識を忘れないようにするためだ。


 やる事リストも眺めてみる。

 収納魔法の開発、これは済と。

 エアホッケーゲームを作る、これも済みと。

 感知の魔道具を売り出す、これも済み。

 移動に使う車みたいな物の開発、これも済み。

 人を探知する魔法の開発、これも済み。


 残ったのは魔導師のファラド一族とのケリをつけるだけだ。

 何万人といる魔導師の事を考えると根絶やしは難しい。

 それに罪がない魔導師もいるだろう。

 一人一人の罪を暴くのは、何年かかるか考えたくもない。


「マイラ、レクティ、集団を倒すにはどうしたら良いと思う」

「頭を潰すのよ。そして内部の対立を煽る。そうすれば、集団は内部抗争を始める。裏社会の手口」

「疫病ですわ。集団が全滅するのはいつも疫病です」


 二人ともなかなかだな。

 だが、どちらも欠点がある。

 まず、頭をつぶしても次の頭が生まれてくる可能性もある。

 それに頭は大抵用心深い。

 暗殺は難しいだろう。


 レクティのウィルスという説は凄いけど、魔導師を倒すウィルスって何だろう

 魔道具に魔導師だけ罹る何かを仕込むか。

 それなら色々と条件を付けられる。

 嘘判別魔法の応用で罪を犯している奴だけを殺すとかな。


 俺は、ファラド一族の頭を潰す為の情報も集めながら、魔導師だけに罹るウィルスを研究し始めた。

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