第242話 オルタネイト伯と、探求と、決戦

Side:ファラド当主


 反乱が全て失敗に終わった。

 もう手駒はほとんど残ってない。

 これからは雌伏の時なのだろう。

 魔導師が1人でも生き残っているうちは負けではない。

 何度でも出直す事が出来る。


「おい、誰か」


 ローブを着た魔導師が現れて、かしずいた。


「はい、ここに」


「王国の状況はどうなっておる」

「王族は魔導師の全てを殺すつもりはないようです。罪を犯していない魔導師は赦すそうです」

「ふむ、どうするべきか」


「スナップ地方にオルタネイト伯の密偵が多数放たれました」

「何っ!」


 オルタネイト伯はわしを許すつもりはないようだ。

 たかが妻の一人を殺されたぐらいで、そうムキになる事もあるまいに。

 オルタネイト伯は理性的な男だ。

 魔導師の有用性は見抜いておるに違いない。

 だが、わしの首は欲しいのだろうな。


「タイトめの動向は?」

「こちらに一直線に向かっています」

「仕方あるまい。外国にいる魔導師をここへ集合させろ」

「はい、ただちに」


 タイトのスペルブックを手に取る。

 『void』とは何だ。

 何を意味する。


 『{』に何の意味が。

 分からん。

 対になっている『()』と『{}』は台詞に使う鍵括弧みたいなものだろう。

 スペルの中にさらにスペルがあるのか。

 どう考えても分からん。

 わしにはこれが魔法の神との会話に思えてならない。


 執務室を出て実験室に行く。


「魔導師の死因は分かったか?」


 ここでは王都で一斉に死んだ魔導師の遺体を調べておる。


「分かりません。噂では王家所蔵の神器が使われたと言われてます。大量の魔石が代償のようです」

「分かっておる。報告書は読んだ」

「死ぬ前に体重を計っている魔導師がおります。死んだ後もさほど体重は変わってません。毒の類ではないですね。魔導師のみ死んでいます。死の天使でも呼び出したのでしょうか」

「異界からの召喚は成功した事がない」


「魔導師の中には、天界には生きている者の全てが載っている名簿があって、それが操作されたと言う者もおります」

「たわごとを」


 迷信を信じてどうする。

 魔法の探求は理の探求だ。

 その証拠に、火の燃え方が分からない者には、火の魔法は使えん。

 万事がそれよ。


 わしは、魂の存在すら疑っておる。

 魂という実体のない物でなく、魂という器官があるとな。

 悪事をすれば魂が穢れると宗教家は言うが。

 神の罰で死んだ者はおらん。


 何かがあるのだろうが、分からん。

 死ぬ前から体重計に乗せて死んでも、針は動かん。

 魂が抜けているのなら、針が動くはずだ。


 魂とは何だ。

 実体のない物に魔法が影響を与えるのか。

 魂があるのなら幽霊がいるはずだ。

 幽霊を見たという人間は多いが、捕まえた者はおらん。


 この世界は神がみる夢だという説もある。

 夢なら不合理も通るのだろう。

 確かに魔法は不合理と言える理を捻じ曲げておるのだからな。

 夢に過ぎないのか。


 いや、わしは生きておる。

 こうして自分の意思で考える事が出来る。

 生きている証拠ではないか。


 修練場に場を移す。


「【神の夢を覚ませ】、ふんやっぱりな。神の夢などはない」


 そうだと思っていたわい。

 夢の世界で生きているなぞありえん。


「【魂を可視化せよ】、何も目には映らないな。この説もないか」


 死んだ者の魂が漂っていそうなものだが、やはりないな。

 実在するもので解けていない謎はまだある。


 特殊能力がそれだ。

 空間魔法使い、姿隠し、その他に多種多様な特殊能力がある。

 魔力による力でない事は分かっている。


 個性と言ってしまえばそうだが、その特殊能力は魔法にも影響を及ぼす。

 まるで天から与えられた恩恵だ。


 神秘魔法名は誰が決めているのだろう。

 重複がない事から、管理している存在か、それに類する物があるに違いない。


「【生きている全ての者の名簿を見せよ】。無いか。やはりな」


 あっても、人間には軽々しく見せられないか。


「外国にいる魔導師の手配は済みました。大急ぎでこちらに向かっています」


 部下の魔導師が報告にきた。


「ご苦労」


 決戦か。

 仕方あるまい。

 ここは聖地なのだ。

 ファラド当主の名において死守せねばならん。

 ファラドの名に栄光あれ。

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