第243話 アキシャルと、村と、ラチェッタ

 敵の本拠地があると思われるスナップ地方にベークを連れて入った。

 レクティの部下の情報では、ここに外国にいた魔導師達が集まって来ているらしい。


 本拠地はどこだ?

 探しに行きたいが、ここは既に敵地。

 うかつに動くと思わぬ怪我をしそうだ。


 そんなの俺の心を知ってか知らずか、ベークは気ままに出歩いている。

 俺も止めなかった。

 たぶんベークは捕まっても生き残ると思われる。


「ベークには朧がついているよ」


 俺の心を読んだのかマイラがそう言った。


「心配はしてない」


 ほどなくしてベークがお客さんを連れて帰ってきた。


「やあ、皆さん元気だったかい。再会を祝して花はどうかな」


 いたのはアキシャルだった。

 ベークはどうやってアキシャルと知り合ったんだ。


「久しぶり。ところでベークとはどこで?」

「彼ね。旅の恥はかき捨てをしたかったらしいよ。それで僕に穴場を聞いてきた。もちろん僕は花を勧めたよ。女性を振り向かせるには花が一番さ」

「ベーク最低」

「ですわね」

「考えようによっては旅先でのロマンスを」

「ないない。スケベ心100%だね」


「毎日いちゃつかれる僕の身になれよ。旅先で羽目を外しても良いだろう」


「ちょっと、ベークの事は置いといて。それで」

「彼は熱心に花の事を聞いてきたから、教えてあげたんだけど。おも研の話が出てね。僕が先輩だと分かったのさ」


「ここについて何か知っている事はないかな」

「うん、沢山花があって良い所だね。ああ、そう。花好きの女の子と知り合ったんだ。ベーク君を紹介しようかなと思っている」


「どんな子?」

「お爺さんが村長をしているらしいよ。貴族の血が入っているんじゃないかな。魔力量が多いし、魔法も巧みだ。とくに石の花を作る魔法が素晴らしい」


 ベークのスキルを考えると、この出会いに意味があるような気がしてならない。

 その村へ行くべきだろうな。


「ベークの為だ。みんな、その村へ行くよ」


 アキシャルと一緒に村へ向かう事になった。


「奥さんは元気?」


 道中、俺はアキシャルに話し掛けた。


「元気過ぎて手に負えないよ。あまりに屋敷を吹き飛ばすものだから、今は改築中。それで一人旅というわけさ」


 そう言ってアキシャルはウインクした。


「アキシャル先輩、紹介してくれる女の子の事を聞きたい」


 ベークが辛抱しきれなくなったらしい。

 質問したがっている。


「ラチェッタ嬢と言うんだ。そばかすが可愛い女の子だよ。花に例えると百合かな」

「お爺さんは孫娘と僕の文通を許してくれそうかな」

「お爺さんとは会った事がないんだ。村人は親切だから、きっと村長も親切で良い人だと思うよ」

「僕は気に入られるかな?」


「花をもっていけば大丈夫さ。この先の森の中にちょっとしたお花畑がある。咲いているのは野草だけど、とても綺麗だよ」

「摘んでいきたい」


 寄り道ぐらい良いか。

 アキシャルの案内でお花畑に寄る。


「気づいたか」

「うん」


 俺の言葉にマイラが頷く。

 何に気づいたかと言えば、モンスターが1匹もいないのだ。

 ゴブリンの1匹ぐらいは、いそうなんだがな。

 森に入ったというのにその影すら見えない。

 異常だ。


 強いモンスターがいるという訳でもなさそうだ。

 何者かが討伐しているのだろう。


 ベークはそんな不穏な事など露にも思わず、一生懸命に花束を作っている。

 いい気なもんだ。


「警戒の魔道具がある」


 マイラがそう言ってある一点を指差した。

 樹に魔石が嵌っている。

 魔導師の本拠地が近いのか。

 それとも支部でもあるのか。


 とにかく俺達の接近はばれているようだ。

 仕方ない、堂々と乗り込もう。


 それはそれとして、無駄にピリピリしても精神が持たない。

 お花畑でランチを広げ、気分はピクニック。


「あーん」


 マイラが俺にサンドイッチを差し出す。


「あーんですわ」

「私もあーん」

「乗り遅れた。あーん」


 差し出されたサンドイッチをみんな食べた。

 それ1回だけで、腹が一杯になった。


「くそう僕だって、ラチェッタにあーんしてもらうんだ」

「妻の元に帰りたくなるね」


「エミッタさんも、寂しがってますわ。でもお変わりはないようです」


 レクティはエミッタも見張っているんだな。

 重要人物扱いなのだろう。

 さあ鬼が出るか蛇が出るか、村に行くとしよう。

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