第244話 村と、違和感と、本拠地

 村に入った。

 どこにでもある長閑な村だ。

 だが、俺は違和感を感じてた。


「ラチェッタ嬢を呼んで来るよ」


 アキシャルが一人村の奥の方に入った。


「違和感というよりは心地よさ」

「ここ気持ち悪い」


 俺とマイラの感想が真逆だ。


 何だろう。

 何がそう思わせるのか。


「みんなはどうだ」

「普通ですわ」

「違和感というほどではないですが、居心地が良くないですね」

「何にも感じないけど」


 リニアも居心地が悪いのか。

 最初から見てみよう。


 村をぐるっと囲んだ柵。

 これはゴブリンなどを寄せ付けない為の物だ。

 モンスターがいないのに柵があるから、違和感があったのかな。


 畑を見ると、村人が世話をしているのが見える。

 別におかしな所はないな。


 だが何かがおかしい。


「僕はここが好きだ。ラチェッタの住む村に相応しい。まるで伯爵邸に帰ったようだ」


 ベークの感想もおかしい。

 ここのどこが伯爵邸なのだろう。


「ベークはここのどこが気に入ったんだ?」

「整然としているところだ。きっちりしていて隙がない。貴族が住む村に相応しい」


 そうか。

 柵の間隔と長さが、ぴったり同じなんだ。

 畑もそうだ。

 作物が直線に植えられてて、間隔も一定だ。

 整い過ぎているんだ。


 マイラが気持ち悪いのは、スラムで育ったからだろう。

 物が散乱してたり、建物が曲がったりしているのが、普通だからだ。

 そういう環境で育てば、整然としていれば気持ち悪いよな。


 ラチェッタと思われる少女がアキシャルとこっちに来る。

 俺達はニヤニヤしながらベークを見守った。


「初めまして、僕はベーク。ゆえあって生家は名乗れないが、貴族に連なる者だ」


 ベークは花束を差し出してそう言って笑った。


「初めまして、ラチェッタと申します。村長の孫娘ですわ。ベーク様のご趣味は?」


「働く事だ。探求と言っても良い。日々新しい発見で楽しい」

「そうですか。わたくしはお花を育てるのが好きですわ」

「花壇作りもやった事がある。花によって土壌が全て違うのだよな。そこが難しい。花壇の花を枯らしたのも一度じゃない」


 ベークよ無能を晒してどうするんだ。

 別の所を自慢しろよ。


「ですわね。わたくしも最初のうちはよく枯らしたものです」

「この村は素晴らしい。由緒があるのかな」


 いいぞベーク住んでいる所を褒めるのは好印象だ。


「3千年以上前からここに住んでいると聞いております」

「ほう、生家の歴史より長いではないか。どのような家系なのだ」

「ファラド家ですわ。それも名乗っているだけの有象無象ではなくて本家です」


 何だと!

 声を上げてしまうところだった。

 ベークのスキル恐るべし。

 魔導師の本拠地がこんなに簡単に分かるとは。


「ほう、それは凄いな。魔導師の本家ではないか」

「あら、いけない。さっき言ったのは忘れて下さいまし」

「忘れるよ。ほらもう忘れた。貴族でないので家名無しで良いんだよね。僕も今は家名を名乗れない。お揃いだ。はははっ」


「ベーク、ここに長居は出来ない。そろそろ行くぞ」

「ラチェッタ、手紙を書くよ。それにまた来る。今度は花束ではなくて気の利いたプレゼントを持って来る。働いて稼いだ金でな」

「お待ちしておりますわ」


 急いで村から出た。

 追っ手はいないようだ。


「不味いですわね。本拠地を知られたと敵側にも分かってしまいました。ただ本拠地が知れたのは良かったと思います」

「なになに? ラチェッタに何かあるのか?」

「ベーク、ラチェッタは諦めろ。敵側の総大将の孫娘だ」

「嫌だ。僕は諦めない。ラチェッタを救い出す」


「好きにしろ。少し手助けもしてやろう。レクティ、ラチェッタへベークの手紙を届けてやってくれ」

「かしこまりました」


「決戦の最大戦力はセレンのメテオ魔法だ。本拠地を潰すのにこれほど良い魔法はない。近接部隊が出て来たら、マイラとリニアに任す。思いっきり暴れて良いぞ。レクティは情報収集を頼む」


 みんな無言で頷いた。

 いよいよ最終決戦だ。

 こちらの戦力は少ないが、一騎当千だ。


 たぶん楽勝だろう。

 本拠地さえ分かれば、後は問題ない。

 敵の当主も、ラチェッタのお祖父さんで間違いないだろう。


『敵の本拠地が分かった明日叩く』


 俺はランシェに伝言魔法した。


『気をつけるのである。当主は判明したのであるか?』

『魔導師の本拠地の村長がそうらしい。本名かどうか分からないが、名前はモーメンタリ』

『後始末は任せるのである』

『他国の様子はどう?』

『王都で魔導師を皆殺しにしたあれが効いているのである。どこも様子見をしておる』

『俺のせいで戦争が起こらなくて、良かった』

『まだ戦いの後の事を考えるのは早いのである。油断めされるな』

『油断はしないさ』


 よし、ゆっくり寝てから、総攻撃だ。

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