第246話 実験動物と、当主と、俺は生きている

 胸糞悪い。

 実験動物のホルマリン漬けみたいな物が多数ある。

 モンスターだけなら良かったが、人間の物も多数あった。


 リニアにもやっているんだから、実験はしているとは思ったが、ここまで大規模だったとはな。


「これが一族の罪なのですね」

「ほんの一部だ。病気をばら撒いたり、人を殺したりもしてたな。あとでランシェを紹介してやる。話を聞くといい」


 次の部屋では生きたモンスターが融合されて飼育されてた。

 生命維持装置に繋がれているのがほとんどだ。


 人間と融合したのはないみたいだな。

 だが、ホルマリン漬けはあった。

 たぶん長生きできなかったのだろう。


 俺は可哀想なモンスターを解き放ってやった。


「手伝いますわ。一族の後始末ですから」


 ラチェッタが涙を流しながら、モンスターを解放していく。

 一族の非道が悲しいのか、モンスターを憐れんでいるのか分からないが、ラチェッタには思う所があるらしい。


 ベークがラチェッタにハンカチを差し出す。

 そして優しく抱きしめた。

 ラブラブモードに入っているな。


 俺も人の事は言えない。

 マイラとか所かまわず抱きついてくるからだ。


 実験室の始末は終わり、修練場があり、そして会議室があった。

 人は誰もいない。


 そして、玉座の間があって、玉座には老人が座っていた。


「お爺様、罪を償って下さいまし」

「おお、ラチェッタ。今そこに居る奴らを皆殺しにしてやる。わしの後を継いで、ファラドを再建させるのだ」


「お爺様、もう声は届かないのですね」

「タイト、お前を殺す」


 敵の当主であるモーメンタリは魔道具を100個ほど起動させた。

 あれは俺が作った魔力アップじゃないか。


「がぁ。【復活】」


 ウイルス付きの魔道具を100個も起動させたら、そりゃ死ぬよな。


「わしは死なん。あの世で、真理を見た。この世界は……全て夢。神が見せている夢だと言うのか! くっ……世界はわしを拒絶するのか。わしは覇道を行くのだ……」


 実験されたモンスターの一団がなだれ込んで来て、モーメンタリに群がる。


「畜生共が【失せろ】」


 実験されたモンスターが消えていく。

 モンスターの勢いは止まらない。


「【完全回復】」


 モーメンタリの手がスキルブックごと食われた。


「やめろ。わしを食うな。ぎゃあ。食うなと言っておる。ぎゃあ、痛い。寒い。あそこは嫌だ。あそこには連れて行くな」


 俺にはモーメンタリに群がる亡霊が見えた気がした。

 そしてモーメンタリは跡形もなく食われた。


 そしてモンスター達は死んだ。

 生命維持装置がないと長く生きられないのだろう。


 この老人が見た真理が何か知りたいような気もしたが、知らない方が良い様な気もする。


「お爺様……」


 ラチェッタの目に涙が光った。

 終わったな。

 破壊の時間は終わった。

 これからは再生の時間だ。


 地上に出ると、レクティが待っていた。


「これから大変ですね。ファラド亡き後にどうなるか」

「心配いらない。ラチェッタとベークが新しい歴史を作っていくさ」

「僕がラチェッタと歴史を作るのか」


「責任重大だぞ」

「自信がありませんわ」

「ほらベーク、さっそく出番だ」


「僕はともかくラチェッタなら出来るさ。いいや、二人でならきっとできる。二人で新しい世界を切り開こう」

「ベーク様」


 二人の世界が出来上がった気がした。

 二人に当てられたのか、俺は4人の婚約者くっ付かれている。


 世界の事を考えるんだ。

 神の見せている夢だと言ったな。

 俺達は寝ているのか。

 そんな感じはないな。

 生きている実感がある。


 モーメンタリが言ってた行きたくない空間は、サイリスの体のデータがあった場所か。

 地獄というやつか。

 なんか違う気がするな。


 柔らかい。

 ふにゅっと。


「いい加減離れろ!」

「タイトが怒った」


「節度は守ろうな。そうでなくても人がたくさん死んだんだ」

「死人は楽しめない。生きている人が目一杯楽しむのが供養なの。スラムの鉄則」

「そうだな。死後の世界は亡霊に任せよう。俺達は今を精一杯生きる」


 世界なんかどうでも良い。

 婚約者達がいてくれて、笑っていたら、それで良いんだ。


 今日だけは難しい事を考えるのはやめよう。

 今を生きるんだ。


 さあ、一杯食って遊ぶぞ。

 そして、魔法という名のプログラムを作るんだ。

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