第189話 職業見学と、魔法陣製品と、魔道具作り

 夏休みも終わり、職業見学の授業だ。

 これはもうやったので、やる必要はないんだが。

 リニアがやりたいというので、5人でやる事になった。


 魔法陣工房にお邪魔する。

 工程の最初からという事で、判子作りからだ。

 木のブロックに魔法陣を彫る。

 多色刷りなので、そういう所に職人の技が光る。

 コツは模様を小さめに作っておいて、後から筆で模様を繋ぐのだそうだ。


 魔法陣は色が重なっても大丈夫なのだが。

 重なった部分があると、効率が悪くなるらしい。

 ぴったり模様が分かれているのが、理想との事。


 判子が出来ると次はインクの調合。

 これは分量さえ間違えなければ問題ない作業だ。

 間違えても効率が悪くなるだけで、失敗とはならない。

 魔法陣技術も案外融通が利く。


 いよいよ、魔法陣を作る作業だ。

 判子でべったんと押して、筆で修正。

 目視でチェックしたら、実際に魔力を通してみて、動作チェックする。


 ボンっと爆発音がした。

 魔法陣が描かれた紙が爆発して、破片が飛び散る。


「失敗すると、まれにこうなります。大抵はうんともすんとも言わないんですがね」


 工員がそう説明した。

 魔法陣は出力が弱いので、大した爆発は起きないのだろう。


「何か質問はありますか?」


 工房長が質問を受けてくれるらしい。


「魔法陣の真似はされないのですか? 類似品が出そうなんですけど」


 リニアが聞いた。

 リニアはレポートを提出しないといけないので真剣だ。


「インクの製法は秘密になっています。それに魔法陣の形は特許として登録してあり国で保護しています。他国なら作れるでしょうが、国内ではまず無理です」


「魔道具よりコストが安いと聞いたけど、どうです?」

「インクの染料はありふれた安い材料です。製造過程も簡単ですし、コストの面では魔道具に負けません。普通に作れば魔道具の100分の1の値段でしょう」


「普通でないのがあるのですか?」

「ええ、クラッド商会が作る魔道具は安いですね。ゴブリンの魔石を使っていると聞いてます。コスト面では勝てますが、性能を加味すると良い勝負かもしれません」


「ありがとうございました」

「じゃあ、次は普通ではないクラッド商会に行こう」


 俺がそう提案するとリニアは頷いた。


 クラッド商会の工房は、なんの変哲もない普通の家だった。

 工房というより内職だな。


「お邪魔します」

「どうぞどうぞ」


 主婦達が迎え入れてくれた。

 作る工程を見学する。

 ゴブリンの魔石が並べられ、魔道具を作る魔道具で、商品が出来上がっていく。

 動作チェックして、完成だ。


「あら、メイカーの魔力切れよ」


 出来た魔道具が働かなかったらしい。


「やだ、さっき魔力は入れたのに。たぶん回数制限に引っ掛かったのね」

「会頭の所に行って来なさいよ」

「ちょっと、お茶しといて」


 お茶が淹れられた。


「ねぇねぇ、あの事を知ってる?」

「なにあの事って?」


 主婦たちがお喋りに興じはじめた。


「市場がね大盛況なのよ」

「そうなの、どう盛況なの」

「なんでも売り上げが2割上がったとかで、市場にお店を出す人が増えたのよ。そしてお客が増え、お店が更に増えたの。掘り出し物とか安い物が沢山売られているわ」

「まあたいへん、仕事が終わったら、行かなきゃ」


 市場が盛況なのか。

 後で行ってみようかな。


「聞いてもいいですか?」


 リニアが質問する。


「ええ」

「さっきの回数制限ってなんです?」

「あれはね。魔道具を作る魔道具をメイカーと呼んでいるのだけど、このメイカーに回数制限があるのよ。会頭の所に持っていくと交換してくれるわ」


「工程が簡単なようですが、どれぐらいの数が作れます?」

「それがね。動作チェックに魔力が必要なのよ。それで沢山は作れないの。動作チェックが無ければ1万個ぐらいは余裕よ」


「それは凄いですね。メイカーは誰が作っているのですか?」

「会頭じゃないの。教えてくれないのよ。色仕掛けで会頭に迫った奥さんがいたそうだけど、やり逃げされたそうよ」

「やり逃げ?」


「あらやだ。ここだけの話よ。その奥さん浮気がばれて離婚しちゃったそうなの」


 やり逃げが何なのか分かったのかリニアの顔が赤くなる。

 マイラとレクティは普通だ。

 セレンの顔も赤い。


 少女に話す内容じゃないだろ。


 さっき出ていった主婦が帰ってきた。


「こほん」


 俺が咳払いすると、主婦たちは作業を再開した。


「お邪魔しました」


 俺達はおいとまする事にした。


「どうリニア、良いレポートが書けそう?」

「ええ、魔法陣と魔道具の比較は面白いわ」


「一般的な魔道具の作り方は知っているよな」

「ええ、学園で習ったわ」

「メイカーを使った魔道具との比較も書いてみたら良いかもな」

「うん、そうする」


「課外活動も終わったし、市場に行ってみるか?」

「賛成」

「そうですね。息抜きも必要です」

「ええ、行きましょ」

「安い物があったら、買おうかな」


 俺の提案にみんな賛成したので、市場に行く事にした。

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