第190話 にゃんこクレープと、ペストマスクと、倒れる仲間

 市場は俗にいう青空市みたいな感じだ。

 ゴザを敷いて各人が品物を持ち寄る。

 一応、食べ物というくくりはあるみたいだ。


 骨董などはない。

 ただお茶の店では、一緒に茶器も売っている。

 グレーゾーンなんだろうな。


 串焼きなんかを売っている店もある。

 料理して食わすのはありみたいだ。

 同じ種類の店が固まっているわけではない。

 バラバラだ。


「見て見て、にゃんこクレープだって」


 リニアがはしゃぐ。

 丸く焼いたクレープに三角の耳が付いている。

 これは別に焼いたクレープを切ってくっ付けたらしい。

 耳の部分が黒焦げだ。

 二度焼きしたらそうなるよな。


 耳、要らないんじゃ。

 具材でにゃんこの顔を描くのは良しとしよう。


 だが、クレープは畳まないと食べづらいだろう。

 突っ込みどころ満載だな。

 でも子供受けは良いようだ。

 通り過ぎる子供が盛んにねだっている。


 離れたところにあったのはくまさんクレープ。

 こちらは丸耳なので二度焼きではないので、耳は黒焦げではない。

 だが、食べづらいのは一緒だ。


 俺がやるならこうだ。

 どら焼きサイズに変更。

 構造もどら焼きみたいにして、真ん中に甘いものを挟めば良いのにな。

 顔は焼き印で押せばいいだろう。


 俺の考えをみんなに話したら、感心された。

 でもそれができたら、くまさんクレープじゃなくて、くまさんどら焼きだと突っ込みを入れそうだ。


 俺達が中央の一角に差し掛かったら、客の半分が一斉にこちらを向いた。

 何だ?


 客は持っている鞄から、ペストマスクを取り出すと一斉に被った。

 懲りない奴らだ。

 関わりのない客は突然の事に驚いている。


「動くな!! 動けば殺す!!」


 ペストマスクの奴らの手には瓶が握られている。

 汚い奴らだ。

 市場の客を人質に取ろうというわけだ。


 客が逃げようと動く。

 火球が放たれた。


「ひっ」


 客が硬直する。

 火球は地面を焦がした。

 まだ威嚇段階らしい。


 俺は伝言魔法でランシェに連絡を取り始めた。


『ランシェ、タイトだ。市場で毒を使ったテロが発生しそうだ。応援を頼む』

『なんとしてでも防げ』

『何とかしてみるよ』


 援軍はこれで来るだろう。

 最悪があってもなんとかしてくれるはずだ。


「リニア、ここにある毒を飲め」


 ペストマスクがポーション瓶を5つ置いて下がる。


「嫌よ」

「断ったらどうなるか分かるな。だが、お前は見知らぬ他人などどうでも良いと言いそうだ」

「その通りよ」

「仲間達はどうだ。一般市民を見殺しに出来るかな。誰か毒を飲め。飲めば10秒の猶予を与えよう。だが、リニア、勘違いするな。戦闘行為をすれば手に持っている毒が散布されるだろう」


 毒魔法ではこの人数はいっぺんに倒せない。

 仕方ない切り札を切ろう。

 それには時間稼ぎが必要だ。


 魔法の法則として、魔法は体から出た魔力で実体化される。

 離れている相手のすぐそばで魔法を発動するには、魔力をそこまで伸ばさないといけない。

 それに魔力を伸ばす行為は魔法じゃない。

 魔力操作であって技の一種だ。

 複数同時に魔力を伸ばすのは出来ない。


 俺はそれを解消すべくある手を考えた。

 それには準備がいる。


「さあ、カウントダウンだ。10、9、8、7」

「私が飲むわ」


 セレンがポーション瓶を一つ拾って飲んだ。

 くそっ、間に合わなかった。

 セレンが倒れる。

 セレンー!

 なんでどうしてこうなった。


「くくっいいぞ。10、9、8、7、6、5、4、3、2」


 レクティが何も言わずにポーション瓶を拾って飲む。

 そして、倒れる。

 レクティ!


「次は誰だ。10、9、8、7、6、5、4、3、2」

「タイト、愛してるわ」


 マイラが瓶を拾って飲む。

 そして崩れ落ちた。

 マイラ、俺も愛している。


「さあ次はどっちだ。10、9、8、7、6、5、4、3、2」

「仕方ないわね」


 リニアが瓶を拾って飲む。

 そして、倒れた。

 リニアー!


 俺は気づいた4人を大事に思っていた事を。

 これが愛かは分からない。

 しかし、かけがえのないものだと分かる。

 こんな事なら4人と婚約してやれば良かった。


 準備は出来た。

 さあ、復讐の時間だ。

 ペストマスクは一人たりとも逃がさん。

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